本棚 : 「ブラック・リスト」 サラ・パレツキー 著 ★★★★ 早川書房
投稿者: hangontan 投稿日時: 2017-3-14 11:06:24 (368 ヒット)

サラ・パレツキー、初めての本、よくできた探偵小説だ。
作者のことはこれまで全然知らなかった。本書を手にとって、初めて彼女の存在を知った。

9.11のテロ後に出されたというところに本書の持つ意味は深い。9.11後、あらゆるサスペンス、ミステリーはその事件とは無関係ではいられなくなった。現実の世界もそれを機に変わらざるを得えず、当事者のアメリカにおいては、イスラム教徒への偏見やしめつけ、排斥の傾向が強くなり、『愛国者法』の名の下において超法規的な権力の執行が可能となった。そんなさなかにこの作品は書かれた。

そういう時代背景はかつて1950年代から1960年代に吹き荒れた『赤狩り』にも共通するものがある。マッカーシーと非米活動委員会らは「共産主義者」や「ソ連のスパイ」、もしくは「その同調者」を糾弾し、その矛先はアメリカ政府関係者やアメリカ陸軍関係者だけでなく、ハリウッドの芸能関係者や映画監督、作家にまで及び、彼らのプライバシーや基本的な法的権利を踏みにじった。そして、マスコミの報道や自由な表現に自主規制がかかり、自らが標的になることに対する恐怖から、告発や密告が相次いだ。

一人のジャーナリストの不信死から始まる本書は、そういうきな臭い二つの時代をうまく癒合させ、一つのミステリーに仕上げている。

アメリカは大統領にトランプが選ばれた後、改めて国策としての対テロ活動を全面に出してきた。そんなときにたまたま本書を手にしたことは、偶然にしても、なにかしらの因縁を感じる。得てして本との遭遇は神秘的なところがあると常々感じるところであるが、本書もその一冊だった。

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