本棚 : 「ブラック・ダリア」 ジェイムズ・エルロイ 著 ★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2017-3-31 10:22:33 (365 ヒット)

アンダー・ワールド三部作からエルロイの世界に入っていったものにとって、彼の出世作にあたる本著から受ける印象は、彼もはじめの頃はまともなサスペンスを描いていたのだ、ということ。アンダー・ワールド三部作のような破壊力のある作品をイメージしていたが、その意味では若干拍子抜けした感がある。

舞台は1947年のロスアンゼルス、猟奇的に損壊れた死体が発見され、その後犯人が捕まらず未解決に終わった実際に起こった事件をなぞっている。あらかじめ未解決事件と分かっているので、犯人探しというミステリーの醍醐味が欠落している作品を読んでいてもつまらない、と思うことが何回かあった。

終盤にきて、案の定未解決のまま幕引きとなったように思えた。が、まだかなりページが残っており、これから先、何を語ろうというのか、という疑念がわく。なんといっても、実際、未解決事件として閉じているのだから。だが、それだけでは終わらなかった。未解決事件を題材として膨らませたそれまでの挿話のなかにとんでもない伏線が仕込まれていた。一本取られたというのが正直なところ。

未解決事件という先入観なしに読めば、もっと楽しく読めたのだろうが、読む前にそれを知ってしまっていたので、それもせんないこと。それでも、当時の退廃的で暴力的なロスアンゼルスしいてはアメリカ全体の裏の世界に引き込む力は十分にある。怖いものみたさ、を十二分に満喫させてくれた作品だった。

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