本棚 : 「ビッグ・ノーウェア」 ジェイムズ・エルロイ 著 ★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2017-4-27 13:52:39 (358 ヒット)

前作「ブラック・ダリア」では事件に入るまでの「まくら」がとても長かった。推理小説としては類まれといってもいいくらい長かった。しかし、本作品ではいきなり、それが普通なのだろうが、事件が起こってしまい、その犯人探しが主筋となる。

「ブラック・ダリア」同様本作品も警察小説の部類に入る。一般的には、ミステリーに登場する主人公は一旦その事件に係ると、その事件一筋に突き進んでいく。もちろん枝葉の挿話や人間関係のあやなどで話を膨らましてはいる。本作品においても一人の警察官がその事件を追いかけるのだが、実際、一つの事件だけで世の中が成り立っているわけもなく、人間生きている間にはいろんなことが関わってくる。エルロイは一つの事件をそういうもろもろの世相のなかの断片として切り取るのがとてもうまい。それは時代背景というよりはその時代に生きた人間生活そのものである。であるから、複雑な人間関係と登場人物の多さは当然であり、いくつもの事件が次から次と降って湧いてきてもなんの問題もない。

描かれた一連の世相の断片が後半にきて繋がってきて、主筋の物語へとリンクしていく。高い目線で作品全体を見渡しながら読んでいくと、複雑なエルロイの作品も見え方が違ってくる。

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