山の本 : 「神奈備」馳星周 著 ★★★ 集英社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2019-3-28 10:08:30 (266 ヒット)

馳星周が山を始めてから作風が変わったのか、それとも前々から抱いていた作品と自分の心の内との違和感から山に新天地を求めたのかはわからないが、前に読んだ「蒼い山嶺」同様、この作品にもネット上では賛否両論が飛び交っている。私としては、初期のころの自分にはない非日常世界に浸らせてくれたノワール作品に魅かれた。だから、馳星周の作品を久しぶりに手にしたときの驚きは大きかった。「ゴールデン街コーリング」は正統派青春小説そのものだったし、「蒼い山嶺」は山のサスペンスそのもので、かつてのノワール臭はかけらもない。なまじっか、自分が山をかじっていたものだから、山岳小説には期待するものが他の分野とは違った次元のものがある。自分の山の経験値と作品中の山岳描写、心理状態を比較しながら読んでしまい、フィクションであるはずの小説にある程度以上の、極めて高いノンフィクション性を求めてしまう。なので、山の小説への評価基準はそういったものをベースにおいて、冒険性、サスペンス性、物語性を加味したものとなっている。
「神奈備」は山の度合いは高評価だが、物語的にはいま一つとの印象を受ける。もともっとおもしろい山の作品を作者は書けるはず。作者のポテンシャルはこんなものではないだろう。

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