本棚 : 「風の群像」杉本苑子 著 ★★★★ 日本経済新聞社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2019-4-23 13:20:04 (270 ヒット)

北方謙三の「武王の門」を読み終えてから、その背景にある足利時代と南北朝を舞台にした作品がないかと思って、探り当てたのがこの一冊。後醍醐天皇が流刑の地である隠岐から脱出し、北条を打たんと旗を挙げたときから物語は始まる。それに呼応した足利尊氏の一生と彼を取り巻く武士達と朝廷や公家らの思惑が網目のように絡みあう時代を描いている。
真田昌幸は生き残りのために度々陣営を替えてきたことで知られるが、彼の変わり身がそれほどでもないと思えるほど南北朝時代の武士達の身の振り方は複雑を極めた。朝廷自体南へいったり北にいったりネコの目のようにくるくる変わり、同時に院政の動きも連動する。そしてその各々から見方に附けよと令司が下る。武士達はそんな動きに振り回され、己の栄達と絡み合わせて、南についたり北についたり、もうそれは大変だったようだ。
そういう複雑怪奇な時代の断片を主人公の足利尊氏を通してうまくあぶり出している。文章も平易で物語的にも破綻は無く、この頃の時代背景を知るには良い作品だと思う。ただ、登場人物の言葉使い(特に足利尊氏)が「ため口」なのがちょっと引っかかった。

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