本棚 : 「線は、僕を描く」砥上裕將 著 ★★★★ 講談社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2019-11-30 10:34:19 (235 ヒット)

メフィスト賞の作品ということで手に取ったが、その期待は大きく裏切られた。それまで抱いていたこの賞のイメージ、どちらかというとミステリーかファンタジー、を根本から覆す作品だったからだ。「面白ければ何でもあり」というこの賞の理念からすれば、こんなのもありかな、かもしれない。

アルバイトがきっかけで水墨画と触れ合うことになった大学生を描いた青春小説。
題名がそうなら、本の表紙も今風、中身も軽いタッチ。やはりこれも時代が生んだ作品なのだろう。

最初から最後まで抑揚がない、と言えば魅力に欠けるかというとそうではなく、心地のよい一本調子が貫かれている。読み始めてすぐ思うのは、これは読む漫画だ、ということ。ネットで探るとすぐにこの作品のコミック版がヒットする。誰でも考えるのは一緒とみえて、コミック化に向かうのは必然だったのだろう。
漫画のような物語の運びなので、スーッと読めてしまう。多くの人は一気読みするだろう。予定調和的な印象がぬぐえないのにもかかわらず、心のひだに引っかかるという不思議な作品でもある。

最初は軽いタッチで描かれている、と単純に思っていたが、読み進むうちに、作者はあえてこのような書き方にしたに違いないという確信に変わっていった。一見抑揚がなく、軽い言葉で書かれているようにみえるが、実は何度も何度も推敲され緻密に計算されて生まれてきたのだ。

次に出す作者の作品はどういうものになるのだろう、この路線での二番煎じはあるのだろうか、それとも一発屋で終わってしまうのだろうか、気になるところ。

印刷用ページ このニュースを友達に送る