山の本 : 「K2 非情の頂」ジェファニー・ジョウーダン 著 ★★★★ 山と溪谷社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2021-12-25 19:04:55 (84 ヒット)

副題として「5人の女性サミッターの生と死」とある。
文字通りK2に登頂した5人の女性を追ったノンフィクション。5人は登頂後に亡くなったものもいれば、その後、他の山で帰らなくなった人もいる。8000メートルを超える高所での過酷で壮絶な登攀場面やビバーク場面での死と直面した描写は秀逸。そこでは「生」が描かれている。そして、その「生」のちょっとした先にある「死」、それは山という特殊な条件下だけにあるわけではないが、山においては「非情」という言葉が必ず付いてまわる。これが通常の死と過酷な山での死との違いだろう。後に「ブラックサマー」あるいは「嵐の夏」と呼ばれることとなった1986年のK2、以前読んだ「K2 嵐の夏」の中で登場したジュリー・トィリスもそこでの犠牲者の一人。「K2 嵐の山」の中ではパートナーのクルト・ディームベルガーとの山行を中心に描かれているが、本書ではジュリー・トィリス個人についても幼少期の頃から追っていて興味深かった。他の4人も同様、なぜK2を目指したのか、なぜK2でなければならなかったのか。彼女らの山での死の非情さが切々と描かれている。
ただ、ひっかかった点が一つ。それは山に対する著者の先入観。冒頭からそれは出てくるのだが、「山においては、女性は男性から蔑まれている」「チームにあってはお荷物でしかない」と本書に登場する女性クライマーが感じていた、と著者が断じている点。そういう下地のもとに本書が成り立っているのが、ちょっと残念だった。

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