山の本 : 「二荒」
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:12:34 (336 ヒット)

立松和平 著 ★★★ 新潮社

ふたら、「にこう」とも読み、日光の語源になったとのこと。
男体山と中禅寺湖に育まれた一青年を通して、山の暮らしと自然を描いている。読み始めてすぐ、戸惑いを感じる。海外小説の邦訳物と明らかな違い。日本語が丁寧に書かれている、一語一語吟味して書かれていることがよくわかる。これが邦訳ものとの大きな違い。もちろん、国内の物書きにも言葉を大事にする作家とそうでもない作家とがいるのだろうが、立松和平は特に言葉に敏感な方に違いない。おそらく作者は遅筆だと想像される。邦訳物を読んでも、所詮それは訳文にすぎず、原作の文章を完璧に表現しているとは言いがたい。最近ジェットコースターミステリーが流行り、自分もその手のものを好む傾向がある。そんな早い展開になれていると、本書のようにゆっくりと、一歩一歩山歩きをするような文章運びに出会って、違和感を覚えたのであった。しかし、すぐに慣れ、心地良さえ感じるまま、物語へと引き込まれていった。

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