山の本 : 高熱隧道
投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-8-19 6:04:26 (580 ヒット)

吉村昭 著 ★★★ 新潮文庫

息子から手渡された本の二冊目。これも高校の推薦図書だという。
高熱隧道とは何なのか、なんとなく知ってはいたが、こんなに凄まじい話だったとは。昭和11年、黒部第三発電所建設に際し、欅平から仙人谷まで穿たれた隧道工事。黒部奥山は急峻なところで、自然条件の厳しさは折り紙つき。相当な難工事が想像される。欅平と仙人谷双方から掘り始め、それが寸分の狂いもなく貫通し合うのは至難の業。実際、両穴がかち合った時点での中心線は水平に1.7センチの誤差しかなかったとか。題名となった隧道の高熱問題、頑強に作られた宿舎が文字通りふっ飛んでしまう泡雪崩、それらによる事故が相次いで、ついには犠牲者の数は三百を超えてしまう。度重なる事故のたび、現場の工夫達は幾十もの死体を目の当たりにする。しかし、恐怖に怯えながらも工事を進める。それを支えたのは、下界では到底考えられないほどの高賃金もさることながら、工夫達の意地とプライドである。高温のためいつダイナマイトが爆発するかもしれない恐怖、一方でなんとかして自分のこの手で貫通させたいという気持ちの高まり、両者が心の中でせめぎ合う。そしてついに片方側から一本の鑿が貫通する瞬間がやってくる。昭和の日本を築いた先人たちの熱い思いの詰まったドラマだ。

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