山の本 : 「日本アルプス殺人事件」 森村誠一 著 ★★★ 青樹社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-1-10 5:43:50 (449 ヒット)

かつて、大日平と弥陀ヶ原を分けている称名川に橋を架ける計画が持ち上がったことがあった。もし実現していれば立山周辺の観光状況は大きく変わっていただろう。その後、どうなったのだろうか。

この作品は槍ヶ岳の開発計画が素地となっている。そして街で起こる殺人事件。そのアリバイのために山が使われた。写真を使った巧妙なトリック。図説まで挿入してあり、山と推理小説どちらも狙った野心的な作品。

ストーリーや、トリック自体はそんなにワクワクさせてくれるほどのものではない。しかし、ときおり描かれている山の臨場感が秀逸。言葉で表現しがたい一瞬の輝きをこうやって文章で言い表せるのも、やはり物書きのなせるわざだろう。

以下引用:

『一瞬の時点をとらえての写真に定着させたような観察すら、赤と黄を主体にした色彩の洪水である。それが時間の経過にしたがって、夕闇の藍と黒の蚕食を受けて、少しも静止することのない千変万化の色彩の饗宴をくりひろげていた。稜線に近づいて赤みを帯びた太陽が、雲を染める。逆光の中に濃いシルエットを刻んで沈む稜線の真上が最も赤く、天の上方へ行くにつれて茜から黄色へ、そして、夕闇がひたひたと侵蝕して来る東方の藍色の空へとつながる』

『その中間にあって、複雑に堆み重なった雲層が、落日を屈折して乱反射する。光を浴びた雲の下層は燃え上がり、雲そのものが炎のように見える。上層の雲は、紫から、黒へと退色する』

こんな書き方してみたいなぁ。

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