山の本 : 「聖域」 大倉崇裕 著 ★★★ 東京創元社
山岳ミステリーとしてはなかなかよくできている。
あとがきで著者が言っているように「山とミステリーの融合は難しい」
そこをよく練り込んだ筋立で乗り切っている。
単独で出かけた女性の遭難が事件の底にあり、それにからんだ様々な人物が登場してきて、犯人探しの醍醐味もある。
しかし、架空の山の設定に若干の違和感を覚えた。周辺の山域や最寄りの町が実名で出てきているのに、対象の山や尾根が架空の名前となっている。なんとなくその場を想定しにくい。
また、何年もかけ何度も何度もチェックを行ったとのことだが、それでも腑に落ちない表記があった。山での岩登りを「岸壁登攀」としたり、「剣岳」と「剱岳」が混在していたり。
そういった詰めの甘さも作品の完成度に影響を及ぼすものだ。