山の本 : 「腐蝕の構造」 森村誠一 著 ★★★ 角川文庫 
投稿者: hangontan 投稿日時: 2012-11-7 18:03:20 (434 ヒット)

山を題材とした森村誠一の作品は実質上「エンドレスピーク」で終わった。そのあとに出された三部作はとても彼本来の作品とは思えない。誰か、他の彼の弟子が出筆したのではないか、そう思われるほどの出来具合。

そこで、原点に返り、初期の頃の作品を読んでみることにした。

この作品は昭和48年に書かれている。私が手に取ったのは昭和60年頃、30歳前後だったと思う。山登りを始めてから、山岳関係の小説を探しているうちに森村誠一に出会ったのだと記憶する。

後立山連峰の白馬岳から唐松岳に向かう9月の稜線上、そこで起こった遭難事故から物語は始まる。時代は高度成長期、財界と政界とが密接な関係を築いていた。そして、商社がその地位を盤石にしつつある時期でもあった。一方、原子炉開発に関しては、当時はまだ、核兵器への脅威とのジレンマで世論が右に左に揺れ動いていた。

以上のモチーフを背景としながら、男女の愛を描きつつ、密室殺人のトリックも盛り込み、最後には「うーん」とうならせる結末。いわば、おもしろさてんこ盛り。あろう意味、欲張り過ぎの作品と言えなくもないが、森村誠一の魅力が凝縮された作品といえる。

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