本棚 : 「コラプティオ」真山仁 著 ★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-1-12 18:26:03 (512 ヒット)

我が家には「ハゲタカ」が鎮座ましましている。
文庫本とテレビドラマ「ハゲタカ」のDVD。「ハゲタカ」以来、うちのかみさんはワシヅの虜、というより、ワシヅ役の大森南朋に魂を抜かれてしまった。かみさんの携帯の待ち受け画面はもちろん私(ワシ)ではなくワシヅ。「竜馬伝」で武市半平太として出てきたときなんぞ、テレビの前に陣取って正座して観ていたくらいだ。というわけで我が家ではワシヅとかみさんは一応公認の仲になっている。だが、しかし、私には有働アナがいる。朝の連ドラのあとの「あさいち」で毎日その笑顔を拝めるのだから、ワシヅより露出頻度は高いだろう。ワハハ、俺の勝ちだ・・・。

さて、友達のブログに触発されて初めて真山仁の本を手にとった。ブログで紹介されていたお勧めの作品が手に入らなかったので、とりあえず選んだのがこの「コラプティオ」。真山仁といえば「ハゲタカ」の原作者とうことぐらいにしか頭になかったが(私はまだ読んでいない)、件のブログによるとエネルギー問題を扱った秀作であるとか。それは、またのお楽しみとして。

さて、この作品も原発問題が絡んでいる。あの「ハゲタカ」の原作者、友達のブログ推薦ということもあって、はたして「真山仁」とはどんな作家なのかと意気込んで読んでみた。作品冒頭の「つかみ」からはこれから始まる物語への期待を抱かせたが、それはすぐに消え去り、なんかしっくりとこない。なんか変?話が上滑りしている感がぬぐえなっていった。そして、違和感を心の隅に抱えたまま物語は終わってしまった。読む前の期待度があまりにも高かったせいなのか・・・。それゆえに星二つ。

ネット上の書評は押し並べて高い。中には自分と同じ印象を受けたものもいるにはいるようだが、それは少数派で、平均点はかなり高い部類にはいるようだ。

なんかしっくりと来ない理由。それはこの本が出された経緯にも要因があるようだ。読み終えてから分かったのだが、もともとこの作品は2010年3月号から翌年5月号まで『別冊文藝春秋』で連載され、連載最終締切が2011年3月14日だったのだという。つまり、東日本大震災の三日前ということになる。作者は「作品の性質上、その震災と福島県で発生した原子力発電所の事故を踏まえて作品を発表することが小説家の使命と考え、ご批判は承知の上で加筆修正を行いました」と本作品の謝辞で述べている。もともとあった作品に未曾有の災害で起こったトピックを混ぜ込んだのがもっとも大きな「しっくり来ない理由」となったのだと思う。加筆修正が悪いと言っているのでない。それが付け焼刃的に終わってしまった感がぬぐえない。

また、この作品には様々な物語が組み込まれている。政治と人、原子力を含めたエネルギー問題(震災の前後を含めた)、ODAが抱える諸問題。それらをうまく融合させた作品にしたかったのだろうが、その試みはうまくいかなかったようだ。ネット上では、原子力問題への一石とか、語り部となるカリスマ首相への賛美が目立つが、自分にはそれが伝わって来なかった。首相の若きエリート秘書官と彼と同級の新聞記者との物語もまたしかり、それ以外のすべての物語において上滑りしている。というのが率直な感想である。うまい表現が見当たらないのだが、例えるならこの作品には「暗くて深い川」がない。いつそこに行きつくのかと期待しながら読み進んだが、とうとうそれには出逢わずじまい。
まぁ、次の作品に期待しよう。

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