本棚 : 「黙示」真山仁 著 ★★ 新潮社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-1-19 19:12:16 (563 ヒット)

真山仁の作品を「コラプティオ」「ベイジン」「マグマ」の順で読んできて、ようやく友達のブログで紹介されていた作品に辿りついた。

だが、実際に書かれた順番は「マグマ」「ベイジン」「コラプティオ」「黙示」。
率直な感想としては、「マグマ」「ベイジン」がかろうじて小説としての面白みを保っていた感があるが、「コラプティオ」「黙示」は残念ながらあまり読みごたえのあるものではなかった。「ハゲタカ」シリーズをまだ読んでいない段階で、えらそうなことは言えないが、まぁ、あれだけ社会現象にもなるくらいテレビドラマが評判だったことから推察すれば、小説「ハゲタカ」もそれなりの作品であったことが伺え、真山仁の作品は筋立てがマンネリ化してきて物語の醍醐味が低下してきているのではないかと思えてしまう。特に「ベイジン」と「コラプティオ」の差が著しい。

彼の作品は想像の世界を彷徨わせてくれるというより、ジャーナリストのルポ的な印象が強い。「ベイジン」までは、それに人間ドラマをうまく絡み合わせて、彼独自の境地を開いてきた。ジャーナリストの目から見た社会の不合理、金融、M&A、原発問題、エネルギー問題、を主題として掲げ、それに物語の核となる人間の弱さ生き方を味付けして、うまく演出してきたと思う。しかし、「コラプティオ」「黙示」では、テーマがかちすぎて、小説としての書き込みがうまくいっていない、というか人間ドラマが上滑りしているという印象を受ける。つまり、目の付けどころはすばらしのだが、その味付けにもう一工夫が欲しいというところ。その点、池井戸潤は、彼と比較するのもなんだが、同じ身近なテーマを取り上げていても、物語性については秀でたものがある。これは、いくらそれなりに書こうとしても描けるというわけでもなく、やはり天性のものだろう。

ジャーナリストとしての真山仁は客観的に物事を捉えて、それを伝えることはできていると思う。いっそのことなら、人間ドラマを捨てて、マイケル・クラントンのような単純エンターテイメントに徹した方がいいような気がする。

さて、この「黙示」という小説。
ヘリコプターからの農薬散布によって子供が被害を受ける場面から始まる。
はたして、農薬は必要悪なのか・・・レイチェル・カーソンの「沈黙の春」を彷彿させる出だし。

金融、原発、エネルギー問題に続いて、今回のテーマは「農薬禍」かと思ったら、物語はそれだけにはとどまらなかった。我々の食生活にとっては切っても切れない関係にある農薬。農薬は使わない方がよいに決まっているが、農薬が無ければ、スーパーに並ぶほとんどの野菜は供給不能に陥ってしまうだろう。すなわち農薬問題は農業問題ひいては食糧問題と対で論じられ、さらには遺伝子組み換え作物の是非にまで及んでいく。そして、物語はCSRという聞きなれないテーマも内包して、さらには、TPP問題も取り込んで、問題提起を促すには十分な作品となっている。

だが、先に述べたように、これだけの大きなテーマを掲げたわりには、人間ドラマは画一的で、予定調和的な終わり方。中途半端という感が否めなかった。作者は何かあせっているように思えてくるのだが・・・。

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