本棚 : 「薩摩組幕末秘録」鳴海章 著 ★★★★★ 集英社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-1-21 9:34:31 (1038 ヒット)

これはおもしろい。星五つを付けたが、その倍付けてもいいくらいのおもしろさ。
久々に出逢ったお宝に大満足。近々では池井戸潤以来の大ヒット。

題名にある「薩摩組」とは、江戸時代、越中富山から出向く売薬商は旅先ごとに「仲間組」を結成していった、その中で薩摩の国で商売をするものの仲間組をいう。その売薬さんが主人公となった時代小説。

北前船が蝦夷から薩摩へ昆布を運んでいて、売薬さんがそれに関わっていた、という話はおぼろげに聞いてはいたが、その裏にこんな秘話があったとは。

冒頭、いきなり「水橋浦」が登場する。これは今でも存在し、私が生まれ育った町。その場面で目が点になった。越中売薬は富山藩で始まったが、加賀藩の支藩である富山藩自体はまことに小藩で領地は極めて少ない。現在の富山県のほとんどは加賀藩の領地で、富山藩と隣接する我が水橋浦も加賀藩領に属した(これは、この本を読んであらためて知ったのではあるが)。当時、財政難の窮地にあった薩摩藩は掛け売りを禁ずる藩令を出した。当然、先用後利がうたい文句の売薬商の出入りも禁じられることになる。薩摩組はその打開策として、蝦夷の昆布を薩摩藩に運ぶことを考えた。その交渉役に主人公の売薬さんが登場する。一方、加賀藩は「抜け荷」の裏にある謀略の匂いを察知し、富山藩がそれに関わったとなれば宗主藩である加賀藩にまで類が及ぶことを恐れ、売薬さんの動きを止めようと加賀藩剣術指南役を派遣する。物語は主にこの二人の主人公を追って推移する。

荒波にもまれる北前船の航海の場面に釘付けになり、蝦夷ではアイヌ人を巻き込んで昆布を巡る騒動に引き込まれ、長崎では謀略が見え隠れし、物語は薩摩で終焉を迎える。もちろん、チャンバラ場面も息をのむ面白さ。二人の主人公を取り巻く人間模様も秀逸で、ストーリー展開とうまく絡み合っている。

巻末にある数多くの「参考文献」にも驚かされた。作者のこの作品への並々ならぬ意欲がうかがえる。これだけの作品を仕上げた作家の気分はいかがであったろうか、さぞ充実し、すがすがしい気分であったろうと想像する。

300年以上も続く伝統ある越中富山の売薬業、その神髄を垣間見ることができる作品でもある。

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