本棚 : 「11/22/63」 上・下 スティーヴン・キング 著 ★★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-3-31 19:22:20 (481 ヒット)

久しぶりのキング。
分厚い2冊の作品だが、スティーヴン・キング作品としてはさほどでもあるまい。
スティーヴン・キングの作品を読むたびに、ノーベル文学賞とはいったいなんぞやと思ってしまう。世界的な大ベストセラーを何冊も出している彼がその賞にふさわしいと思うのだが・・・。

キングの作品には時として奇天烈な設定、想定外の話運びが出てくることがあるが、この作品もその例外ではない。ただ、本作品において奇妙な設定を除けば、全体としてはとてもよくできたハートウォーミングなラヴストーリーといえる。だが、そのたった一つの設定がなければ本作品自体なりたたないのだから、なんとも奇妙な作品といえば奇妙な作品ではある。

そのキモとなる設定とは「2009年から時間を遡ってケネディ大統領の暗殺を阻止すること」。これだけでも物語的には十分興味がそそられ、読む方としては本当に阻止できるのか、だとしたらどうやって、タイムパラドクスの問題はどう解決するのか、ということがつい先に頭の中に浮かんでしまう。だが、本作品はその方法論に主眼を置いたミステリー的な作品ではなく(もちろんそれらは作品中でうまく処理されている)、最初に述べたように、最終的にはラヴストーリーに仕上がっているところがミソなのである。

JFKに関する本としては、これまで「ベスト&ブライテスト」「ジョン・F・ケネディ ホワイトハウスの決断」を読んだくらい。(特に「ベスト&ブライテスト」はケネディ時代のアメリカとその背景を知るには最適な作品と思っている)。だが、それらはいわゆるジャーナリストや識者の目から見たJFKの姿であり、当時の世界観である。しかし、本作作品には、当時、庶民はどんな生活を送っていたのか、キューバ危機、公民権運動の実際はどうだったのか、それらが社会生活にどんな位置を占めていたのか、どんな影響を及ぼしていたのか、が盛り込まれている。先に読んだケネディ2作品と併せて、より当時のアメリカが身近に思えてくるのだった。そして、ケネディ暗殺の首謀者とされるリー・ハーヴェイ・オズワルド。彼はいったいどんな人物だったのか。どのようにして暗殺を計画し、実行までに至ったのか。

主人公が時間旅行をして、過去に入り込む年代は1958年。まだケネディ暗殺までには5年の月日がある。だが、この5年間に経験するすべてのことがケネディ暗殺阻止その瞬間までの必要条件なのだった。もちろん、暗殺阻止はあとの時代にも影響を及ぼし、彼が元居た時代に戻ったときにはとんでもない変化をもたらしていた。主人公が5年間の時間旅行で出逢った最愛の恋人との別れ、彼が暗殺を阻止したために起こった歴史の変化。この最悪の結末をどうするのか、主人公は悩み苦しむ。しかし、著者キングはそれをものの見事に解決してしまう。さすが〜。

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