山旅 : 明星西壁 竜ルート 2014/5/17
投稿者: hangontan 投稿日時: 2014-5-18 20:45:05 (597 ヒット)





















同行者 M嬢 天気 晴れ

半年ぶりの西壁、13年ぶりの竜ルートの再登。
去年は春と秋の二回明星西壁風ルートに挑戦したが、二回とも敗退。去年の春は4月5月と雑穀の岩場で、かなりとまではいかなまでも、いくらか登りこんでいたので、ある程度の登攀準備は整っていた。だが、雨に泣かされ敗退。秋は最強のパートナーと組んで楽勝のはずだった。それでも、うまくいかないときはうまくいかないもんだ、という結果に終わった。

去年の春からほぼ一年ぶり、再びM嬢と西壁にやってきた。登攀は実に去年の西壁以来、岩に触ったのは今年に入ってから一回だけ。自分の登攀態勢はまったくなってなかった、一方のM嬢、毎週のように岩場に通い様々なバリエーションをこなし、冬に入ってからもアイスクライミングに情熱を傾け、登攀系スーパーウーマンへと変貌を遂げていた。その、M嬢がどんな登りを見せてくるのか、それも楽しみの一つであった。

夜半に雨が降ったらしく、家を出るときは道路が濡れていた。去年と同じパターンになるのかと、少し重い気持ちで明星に向かった。

サカサ沢沿いの登山道を歩いて西壁取り付きまで。山の春は遅く、芽吹いたばかりの新緑で満ち溢れていた。急ぎ足のMのピッチに併せて歩いていると、息が上がってきて、これはまずいと思ったが、ペースを落とすのもかっこうが悪く、そのままの歩調で取り付きまで歩く。雪渓は昨年来たときよりはるかに多く残っていた。

雪渓の下の大岩の陰で登攀準備を整え、雪渓と壁との間のシュルントを廻り込んで取り付きに向かった。だが、廻り込んでびっくり。覆いかぶさるようなシュルントの高さは7、8メートルあり、1ピッチ目の終了点までもうすぐというところにまで達していた。雪渓と壁との間も70、80センチくらいしかなく、人一人が通るがやっと。足元は湿っていて泥んこ状態。風ルートの取り付きも、雪が無い時より1メートルくらい高いようだ。壁自体は乾いているが、雪渓と壁に挟まれた空間の威圧感に気押され、クライミングモチベーションが上がらない。左の竜ルートはシュルントがなくて、明るく開けていたので、そちらにルートを変更することにした。

1ピッチ 掘棔。隠毅蹇。戰蝓璽
ボルトに導かれ覆いかぶさる壁まで直上。ハング下にビレイ点はあるがスルーして、左から回り込むようにして登るとしっかりとしスタンスがある。この後やや右上ぎみのルートとなるが、ロープの流れが悪くなるのでここでピッチを切る。

2ピッチ 検棔。腺亜。横毅蹇。
出だしは、ややかぶり気味の一手。MはA0で豪快に越えていく。越えてからは壁の弱点を縫ってのライン取り。要塞ハング下の突き当たったところでピッチを切る。このピッチ、Mを確保しているときから、両手の指がつって、痛いのなんの。足のつったのが、そのまま指に来た感じ。カラビナを掴んだ状態で指が固まって動かなくなったり、指の付け根から固まって動かなかったり、はたまたミイラのように変なかっこうに曲がったままだったり。明らかに鍛錬不足。歳をとればとるほど日ごろの鍛錬が必要だと痛感した。

3ピッチ 検。腺亜。横毅蹇。
トラバースピッチ。ビレイ点から少し下がって、ゆるやかな右上。2ピン目をとったところで、足を滑らせて2メートルほど落ちる。Mの的確なボディビレイで止まった。油断だったが、精神的ダメージはゼロ。出直しとなる。ちょっと取りにくいピンがあってA0となってしまったが、フリーでも行けたはず。足がまったく信用できない。13年前はフリーで越した。垂壁を廻り込むとビレイ点がすぐそこに見えるが、ランペ状の足場をさらに進みルート全体が見渡せるリッジで切る。風ルートのスラブ帯も観察できる絶好のビレイポイント。爽やかな風が心地よい。

4ピッチ 検棔。腺亜。横娃蹇。
テラスから直上するとすぐにしっかりした懸垂支点がある。ここで前のピッチを切ってもよかったかもしれない。さらに10メートルほど登るとややかぶり気味の凹角。Mは20分ほど苦戦。しかし、思いを決してやっとこせと越えていった。力を使い切ったMはそこでピッチを切る。この間もビレイをする小生の指はつったり、ほぐれたり、の繰り返し。上腕がパンプしたまま復活しない。
登って来いとのコールがかかったので、登ろうと、セルフビレイを解いてテンションをちょっとかけたら、Mが取っていた支点の一つが外れてガクンとなる。あとで聴くと、浅い溝にセットしたカムが外れたとのこと。Mが支点を構築し直して再度コールがかかる。Mがてこずっていた一手は立っていて、ホールドやスタンスがありそうで、しかし、どれもがうまく掴めなかったり、指が掛かりずらかったり、足を乗せずらかったり。フリーで越すにはちょっと勇気がいる。足がぴったり決まれば越せそうだが、そこが難しい。フォローする自分もMが残していったアブミを掴んでなんとか越える。

5ピッチ 検檗。横娃蹇。
4ピッチ目の残り。直上後、体を外に出すようにして左のラインに移る。途中、イヌツゲに隠れた足場に大きな浮き石があったので冷やっとした。フォローしてきたMはその浮き石に触れてしまったのか、落としてしまい、大落石となって、砕け落ちる音が壁に鳴り響いた。

6ピッチ 掘棔。横娃蹇。
カムを岩溝に噛ませながら登る快適ルート。しっかりとした懸垂支点があり終了とする。13年前はさらにこの上の木登りラインを行ったが、実質の登攀はここで終了であろう。

2回の懸垂で、岩と雪渓に挟まれたシュルントに降り立った。
計画書通り、8時半登攀開始、15時終了。

今回の登攀を通して目を見張ったのはMの登攀力の向上だった。一年前とはえらい違い。この一年間、執念とも思えるほどの根性でクライミングに打ち込んできた、Mの真摯な姿に敬意を表したい。共につるべで登るクライミングほど楽しいものはない。そんな時間を共有させてくれたことにも感謝。

また、この時期の明星の魅力を再発見できたことも、今回ここに来てよかったと思う点。それは春まだ浅いこの時期にしか見ることのできない山の姿。山の春は雪融けとともに急ぎ足で過ぎていく。その移ろいの中の一コマを壁までのアプローチで感じた。登山道の脇に道標べのようにして咲いているヒトリシズカがまず目に留まる。ミツバやイラクサ、アサツキも豊富だ。サンショの葉っぱもまだ柔らかく、いい香りを放っている。山桜も今なら見られる。そして、今までどの山でもいくら探しても見つけられなかった花にも偶然出会うことできた。ある意味今日の登攀以上の成果であると言ってもいいくらい。あの花をこの場所で目にするとは露にも思っていなかった。それだけに驚きと大感動ものであった。

しかし、もうあと二週間もすると山の緑も濃くなり、今日見てきたすべてのもが様変わりしているはず。ヒトリシズカは花を終え、サンショの葉っぱも固くなり香りも薄く、イラクサは化け物のようにデカクなっていることだろう。あの花も成長した他の草たちにまぎれて見わけがつかなくなっている違いない。

岩場にへばりつくようにして咲いていたヒメウツギも今でなければ見られなかった。
山の出逢いも一期一会、これだから、山は行ってみなければわからない。

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