本棚 : 「山背郷」 熊谷達也 著 ★★★ 集英社
投稿者: hangontan 投稿日時: 2015-1-7 18:30:41 (435 ヒット)

熊谷達也、三冊目。今回は短編集。だが、一遍、一遍の出来にむらがある。

東北に根っこをはやした作者の根性に敬意を表する。中でも興味を惹かれるのはマタギやオオカミ、クマをモチーフとした作品群。ハイテクスリラーや法廷劇では味わえない楽しみが熊谷達也の作品にはある。「生」あるいは「生きている」ことを実感させてくれる物語。辺境の地に根差した、人としての生きざまが描かれている。

最初に「漂泊の牙」を読んだとき。これはもしかして、というひらめきがあった。山間僻地を舞台とする物語なら、もしかして「富山の薬売り」もどこかで登場してもおかしくはない。ひらめきというよりも、ちょっとした期待感。自分が傾倒した作者なら、江戸時代から300年以上も続いている我々の商売についても共振してくれているのでないか。そう思っていた。

そして手に取ったこの短編集。富山の薬売りをモチーフとした短編が収められていた。その作品を「皆白」という。全身白毛でわれたツキノワグマ(ミナシロ)とマタギと越中売薬の物語。短編集としては上等の出来とは言えないが、わが意を得たりということで★三つとした。

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