本棚 : 「炎立つ」 全五巻 高橋克彦 著 ★★★★★ NHK出版
投稿者: hangontan 投稿日時: 2015-7-8 16:47:03 (470 ヒット)

時の総理大臣、安倍晋三のルーツは東北の安倍氏だという説がある。中世の初期、安倍氏は陸奥に強大な勢力と堅固な基盤を持つ一族であった。安倍時頼のとき朝廷との戦となり、前九年の役で源氏に敗れた。しかし、一族は全滅を免れ、安倍時頼の子、安倍宗任は伊予に配流となる。その係累が今の安倍氏へと続いている、らしい。安倍時頼が目指したのは楽土、すべては民のための国造り。そんなルーツを祖先に持つ安倍晋三氏が、総理大臣の任に就いたのもさもありなんと思われる。しかし、「蝦夷の戦は守るが掟」とされていたにもかかわらず、今、首相がやろうとしている安保法案はどうにもそれとは逆の方向に向かっている面も否めない。ここは今一度先祖の教えをよーく噛みしめて事に当たってもらい。

物語は安倍時頼から始まり、子の貞任と娘婿の藤原経清らを中心に展開する。前九年、後三年の役を経て、奥州藤原氏の物語へと推移し、藤原泰衡の死で幕を閉じる。クライマックスは第三巻の結末、安倍貞任と藤原経清の壮絶な最期。その後も出羽の清原氏と源氏との攻防はあるものの、それは小波にも似たようなもの。そして時代は経て、物語は奥州藤原氏の栄華へと移っていく。清衡、基衡、秀衡、泰衡へと陸奥は独自路線を歩み、平泉を中心として東北に一大国家を築きあげる。それは平安の頃より長年蝦夷が夢見た理想の国の形でもあった。しかし、盤石に思えたそんな時代も、もっと大きな時代のうねりに呑みこまれてしまう。朝廷の複雑怪奇な権力争いとあいまった平氏の盛隆と没落、代わって源氏の台頭。平泉が義経を迎えたばかりに辿ることになってしまった悲運の始まり、目に見えない糸に導かれた運命。だが、藤原泰衡は「蝦夷の戦は守るが掟」を貫き通す。頼朝に敗れる形にはなるものの、陸奥に戦を持ちこまない手に打って出る。ここに一つの時代が幕を閉じる。

「火炎」「風の陣」「炎立つ」と読み進んできて、本作品の第五巻に至り、平氏、頼朝、義仲、義経が舞台に上がってくると、興味は単純に東北に寄せる思いから平安から中世に至る時代そのものへと移ってきた。しばらくはここにハマってみよう。

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