本棚 : 「平泉・北方王国の夢」 斉藤利男 著 ★★★★★ 講談社選書メチエ
投稿者: hangontan 投稿日時: 2015-8-12 18:25:50 (431 ヒット)

平泉についての参考図書第三弾。

平泉の全貌が明らかになったのはごく最近のことらしい。中学生のとき、社会科の授業で習ったかと記憶するのだが、そのときはまだ詳しくは分かっていなかったことになる。新幹線や高速道路建設のための現地調査で埋蔵物が発掘され、また新しい文献の出現で日本の歴史は再定義される場面がしばしばあるが、平泉もまたその例外でなかったようだ。

本書は近年各所で発掘された埋蔵物を重要な考察材料の一つとし、平泉と周辺文化を再構築して、最新の平泉の見方を示している。それまで想定されていた以上に平泉文化は奥が深いことが明らかになった。その勢力は津軽や北海道にまで及び、湊を擁して海外との取引を行い、仏教への深い思いを示した仏閣の建造と街づくりの姿が見て取れる。それは西の京とは一線を画した東北の一大文化圏ともいえる。

安倍貞任と藤原経清の代から累々と受け継がれていく蝦夷魂の系譜も本書を読めば一目了然。朝廷の内紛劇も微妙に東北の地に影響を及ぼすが、平泉はうまく乗り切り独自路線を歩んでいく。しかし、平氏と源氏の織りなす国家の仕組みの大転換という大波には逆らうことはできなかった。いやがうえにでもそれに巻き込まれ、本当に一瞬にして王国は崩れ去ってしまった。あれだけ強大で盤石な国家だと思われたのに、あっという間の没落。歴史の流れの持つエネルギーはすさまじい。

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