本棚 : 「クレムリンの枢機卿」上・下 トム・クランシー 著 ★★★★★ 文藝春秋
投稿者: hangontan 投稿日時: 2016-6-1 10:49:49 (471 ヒット)

この頃はまだアフガンのムジャヒディンが米国とそんなには仲が悪くなかった。むしろ、ソ連がアフガン侵攻するなか、米国がムシャヒディンに武器を供与しており、従って、アラーの神はまだ米国に対して寛大な時代だった。

また一方では、核軍縮に向けて米ソ交渉が行われていた時代でもあった。米ソの核兵器を合わせると地球上の文明を数回も破滅に追いやるほど双方は核兵器を保持し配備し続けてきた。どちらかが誤ってボタンを押してしまったら、その1時間後には取り返しのつかない結末を迎えることは必至だった。膨れ上がるばかりの予算の軽減と、お互いに少しは頭を冷やそうとの故の交渉だが、それでも、相手を抹殺するくらいの量はたっぷり残される。緊張緩和と軍縮路線は着々と進んでいたが、微妙なバランスで核の均衡が保たれていた。

さらに、相手国に先手をとることと、相手国の兵器を無力化させることを目的として、SDI構想も進められていた。衛星による監視はもう当たり前のこととなって、次は衛星を利用した先手攻撃の研究がなされていた。まるでSFの世界を地で行くような話。核軍縮交渉はお互いのSDI戦略の進捗状況を探り合いながらの駆け引きでもあった。

そのような時代背景、舞台背景をモチーフとして、この作品は描かれている。そして、それらが横軸ならば、縦軸をなすのが米国が30年以上にもわたって運営管理してきたソ連国内のスパイの物語である。米ソ双方のスパイ合戦はなかなかの見もの。そしてそれを操るCIAとKGBの読み合いもまた面白い。かすかな兆候から背景と全体像そして、解決策まで読み解くライアンはさすがだ。相手をペテンにかけるアイデアは痛快だ。

この物語でメアリ・パット・フォーリが颯爽と登場。

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