投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-25 6:09:29 (413 ヒット)

ダン・シモンズ 著 ★★★ 早川書房

『ハイペリオン』の後編。前編同様「多人数同時進行」。人物によって文体や表現の仕方を変えている。話はそれらが有機的に結びつき複雑に絡み合って進んでいく。単純明快な人物もいれば、分かりにくい人物もいるが、全体としての雰囲気はなんとなく伝わってくる。前編ではそれらの人物の話が物語自体の伏線となって描かれていた。それが後編でどう収束するのか、それが楽しみだった。だが、謎解きは尻切れトンボに終わったような感がある。どのエピソードも完全に消化しきれていない。謎は残るまま。読む方の相当な力量が試される作品ではないだろうか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-25 6:08:31 (391 ヒット)

ダン・シモンズ 著 ★★★ 早川書房

SF度たっぷりの長編。ネットでの書評は大きく分かれるが、おおむね好評。SF小説特有の専門用語が飛び交う。作者オリジナルの造語をどう邦訳するのか、その辺も見ものである。邦訳者も苦心したのではないだろうか。本書の内容もさることながら、その邦訳者の酒井氏のあとがきも秀でている。最近の小説手法についてこうコメントしている。「アメリカ大衆小説全般の巨大化傾向と、それにともなう造りの変化」「重厚長大なプラットフォームが標準として確立してしまった」その結果「人物や背景の細かい描写、複数プロットの同時進行などに移り変わってきた」「アメリカベストセラー型多人数同時進行」ふむふむと納得。小説どころか「24」や「ロスト」「ヒーローズ」などの人気テレビドラマもこの手法で描かれている。話があっちに飛んだりこっちに飛んだりとするため、読むほうは読む力が試されるし、見る方も話の展開について行けなかったりもする。より複雑化したエンターテイメントの膨大な情報量に人間の脳はよくついていくものだと思う。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-23 18:10:06 (484 ヒット)



手っ取り早いのはゆでて食べるやり方。酢味噌やからしなどと和えて食べるのもあるが、ゆでたてだと何もつけずにそのまま食べるのが一番。プリプリとした食感と噛んだ直後に口の中に広がるイカの内臓の風味がたまらない。しかし、こんなにいっぱいゆでても食べきれない。刺身にするのも一案だが、ちと手間がかかる。そこで煮干にすることにした。幼い頃浜に住んでいたときの思い出がフラッシュバックする。

4月になると海岸に寄ってくるホタルイカを採りに、夜海岸に出かけた。はて、何時ごろにやってくるかわからない。この時期の夜風はまだ肌寒く、私達はよく浜で焚き火をしながらそのときを待った。パチパチと漆黒の空に火の粉があがる。暗がりの中、突堤の上や海岸線をホタルイカを待つ人たちが行き来する。ざわざわと交わす会話があちこちから聞こえる。なかなか現れない主人公に業を煮やし帰っていく人もいる。真っ黒な海に網を入れ、ザザーッとすくうと、キラキラとビーズ玉を掃いたようになる。夜光虫の光はぱっと輝き、さっと消えていく。誰かがホタルイカを見つけると、あたりは急に活気づく。懐中電灯があちこちで灯され、我先にと網を差し出す。ユラユラと揺れるように泳いでいるそれは、あっけないほど簡単にタモですくえる。バケツ一杯の大漁のときもあれば、10匹ぐらいしかとれないときもある。子供のことだから、あまり夜遅くまでねばっているわけにもいかず、早々に引き上げた後に、ドドッと押し寄せたこともあった。中学に入って引越しをしてから、家が海からやや遠のいた。波の音も聞こえず、潮風もにおって来なくなった。台風のときの大しけのときなどは、家まで波しぶきが飛んできたのに。それがなくなってから、ホタルイカとりにもイカなくなってしまった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-21 5:37:13 (449 ヒット)

群馬県のお得意さんからお手紙をいただきました。いつも3月に訪問しているのですが、今年は3月を過ぎても来てもらえなかったので、どうしたのかなと私の体を案じての内容でした。ご家族の近況や身の回りのことなどがしたためてあります。80歳を過ぎた方なのですが、ご丈夫で達者な方です。手紙も毛筆で達筆です。文章もしっかりしています。胸に熱いものがこみ上げきました。薬屋家業を営むものとしてはこの上もない幸せです。ただ、返事に困りました。実はこの3月に私はこの方を訪問しているのです。そのことを書くべきかどうか迷ったからです。もしかしたら、認知症?そんなことが脳裏をよぎり、目頭が熱くなりました。結局、3月の訪問のことには触れずに、手紙のお礼、近況、次回の訪問予定を記して返事としました。今度は9月に伺います。それまでとても長く感じます。一日でも早くお会いしたい。会って元気な姿をこの目で確かめたい。そんな気持ちです。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-17 18:55:28 (704 ヒット)



細蔵山をして「秘蔵っ子」と称する人が少なからずいるようだが、それもうなづける。赤谷山からの迫力には及ばないが、剱を正面に据えた眺望は必見に値する。なにより標高が1500メートルとちょっと、いうのがいい。気軽に行って来れる範囲だ。だが、登りは急で、心してかからないと痛い目にあう。1200メートルから残雪を拾って、春山気分を堪能する。登り2時間半、下り2時間。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:24:30 (397 ヒット)

ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★★ 文藝春秋

リンカーン・ライムシリーズからスピンオフしたキネシクス捜査官のキャサリン・ダンスが主人公。彼女の前ではちょっとしたしぐさで、その言動の真贋が見抜かれてしまう。人間ウソ発見器なのだ。彼女の相方になる人はどんな人だろうかと思ってしまう。その敵となるからには相当の悪でなければ勤まらない。今回はそれにふさわしい悪役が登場する。が、その悪行のわりには、なんとなく迫力に欠ける、というか、凄みが感じられない。おバカな悪役というところ。もうすこしまともな敵との対決を期待する。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:24:06 (365 ヒット)

ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★ 文藝春秋
期待して読んだわりには、裏切られた感を持たれた方も多いと思う。ネット上での評価もやはり分かれている。アメリアとライムの超洞察力を駆使して、犯人を追い、また追い詰める。だが、あまりにもすいすいと事が運びすぎる。追っているのは真犯人ではないことは明らかだ。このまま終わるはずではないとページをめくり続けて、最後になって明かされた真相にがっかり。トリックがてんこ盛りだが、やや技巧に走りすぎた感が否めない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:22:47 (319 ヒット)

京極夏彦 著 ★★★★★ 講談社

読んだそばから内容を忘れてしまうのが自分の体質。そんな中にあって、いつまでもイメージが消えないのがこの小説。平面のジグソーパズルを幾重にも織り込んで、それを3次元のパズルに仕込んでいる。自分の手を掛けずしていかに事を成就させるか。知らないままに人を動かして、殺人を企てようとしても、それには偶然という要素が必ずネックとなるはず。たとえ描いた筋に無いことが起こっても、最後にはうまくいく。そんな上手い話を組み立てるために、3次元パズルのような仕組みが用意された。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:22:04 (431 ヒット)

ステーグ・ラーソン 著 ★★★★★ 早川書房

『児玉清氏、絶賛』の呼び声高く、手に取った。
「うーん、これは」と納得。スウェーデンという国についてなんの知識もない自分だが、本書でなんらかのイメージが植えつけられた。たった一冊で何がわかるかという向きもあろうが、そう感じさせられたのは自分だけではないと思う。スウェーデンの断面、ある意味ではその抱える問題、が映し出されている。エロチックな風合いも多分に散りばめられ、かといってそれが無ければ本書がなりたたない、『児玉氏絶賛』の真意もそこにあったのかもしれない。女性陣と評価が分かれるところであろう。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:21:14 (471 ヒット)

ジェイムス・H・コップ 著 ★★★ 文春文庫
アマンダ・ギャレット、颯爽と登場。
ハイテク・ステルス駆逐艦カニンガムの艦長のアマンダが活躍する痛快活劇。南極の覇権を野望してアルゼンチンが軍隊を送り込んだ。それを阻止すべく米国が行動を起こそうとするのだが、南極近海にいるのはカニンガムのみ。軍事のテクニカル面に関しては申し分がなく、戦闘場面は臨場感溢れる。かつ、アマンダを含め、各兵員の人物描写もうまい。ただ、アルゼンチン軍が弱すぎるのがちょっとね。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:20:36 (316 ヒット)

ギレルモ・デル・トロ 著 ★★ 早川書房

「アカデミー賞映画監督が放つ2009年最高のノンストップ・パンデミック・スリラー」というふれこみだった。
着陸した大型旅客機の乗客全てが座席に着いたまま死亡、という出だし。これはウイルステロかなと思わせる。どんな悪党との対決が始まるのか興味深々。主人公であるCDCの職員の家族とのふれあいも織り交ぜながら、まさに映画を見ているかのように場面は進んでいく。しかして、その実態は、ヴァンパイアクロニクルだった。復活を野望するヴァンパイア、そしてそれと手を組み永遠の命と引き換えに心を売ってしまった実業家。そして、この手の話には付きものの打倒ヴァンパイアに執念を燃やす博士風の老人も登場する。
圧倒的な数のアンデッドに対して、少人数のヒーロー。CGを駆使した映画が目に浮かぶ。
典型的なヴァンパイア物語となってしまった。ヴァンパイアものはパターンが出尽くされ、新境地を開くのは難しいと感じた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:20:09 (373 ヒット)

京極夏彦著 ★★★★★ 講談社

圧巻の826ページ。これも分厚いノベルズ版。京極堂は行く着く先を知らないようだ。
殺人は連続して起こるのだが、極悪な「犯人」はいない。その犯人をつきとめてなんになる。事件の真相が暴かれてどうなるというのだ。今回、京極堂の憑き物落としは重たい。京極堂だけではなく、事件に関わる全てのものが言いようのない思いに駆られる。もちろん、読者もその例外ではない。人里離れた山寺で繰り広げられる不思議な事件。まさにそこには結界があるかのごとく、別の時間と空間が見事に構築されている。なんてことは無い、本の題名がそうなのである。京極堂、お見事。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:19:36 (378 ヒット)

京極夏彦著 ★★★ 講談社

今回、京極堂の出番は遅い。京極堂が出てくるまで役者が勢ぞろい。事件のプロットが散りばめられていく。京極堂の出現によって、部分的に描かれていた絵図が一枚の絵画に仕上がっていく。序盤から「夢」のからくりはある程度予想された。しかし、その背景の深さを京極堂が語るにいたって、うーんと唸らせられる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:19:09 (391 ヒット)

京極夏彦著 ★★★ 講談社

またまた分厚いノベルズ版。「姑獲鳥の夏」でさえそのボリュームに圧倒されたのに、今回はさらに分厚くなった。おどろおどろしさは前作よりもパワーアップしている。
切断された手足があちこちで発見され、それは連続殺人事件を推測させる。果たして事件はどこに収束されるのか。京極堂の詭弁はいつのものように冴え渡る。だが彼が導き出した答えは、一見連続しているように思えた一連の事件は、実は関連性のない独立した事件だったということ。ここまででも十分に読みごたえがあるが、京極堂はそこでは終わらない。憑き物落としの本領発揮、バラバラな事件の真相が明らかにされる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:18:27 (350 ヒット)

マイケル・クラントン 著 ★★ 早川書房

出だしはスリリングな展開で、これから何が始まるのかと期待を持たせたが、それは次第にトーンダウンしていった。また、いくつかのエピソードがランダムに出現し、描かれては消え、描かれては消えていく。それはそれで中盤から意味をなしていくのだが、戸惑いが少なからずある。
物語の手法は「恐怖の存在」に似ている。恐怖の存在では、地球温暖化の真偽を双方の立場に立つ登場人物を使ってミステリータッチに描いている。本書では、遺伝子組み換えというテーマを、やはり相対立する進歩派と慎重派の登場人物が物語の進行役となる。訳者あとがきにも触れてあるが、エピソードのランダムな出現とそれがいつの間にか綾なしていく様は、遺伝子の相互作用や、複雑に織り込まれているDNAを象徴しているようにも思える。作者はそれを意図したことには間違いがないと思える。そうでなければ、こんな実験的なストリー展開にはならなかったであろう。だが、遺伝子操作の最新事情を伝え、その問題点をうまく物語化している割には、ストーリの深みに今一欠けるところが伺える。誰か別のストリーテラーと共著となったなら、もっとゾクゾクワクワクするような物語になったような気がする。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:17:52 (421 ヒット)

レイモンド・チャンドラー 著 ★★★★★ 早川書房

文句なくおもしろい。翻訳者である村上春樹氏が何度も読んだ、というのもうなずける。
1953年に書かれた本書だが、今なお色あせず読むものを堪能させてくれる。最近は、流行のジェットコースター・サスペンスになれてしまって、目くるめく展開が当たり前となっている。どきどきワクワクさせながらあっという間に読み切るのが好まれる傾向にある。しかし、この小説はそのまったく逆。ゆったりと流れ行く時間が自然に感じられ、心地よい読書の時間を提供してくれる。文章の巧みさ、語彙、しゃれた言い回し、それがくどくもなくさらりとした文体。うーん、と唸らせてくれる表現、場面が何回も出てくる。

邦訳物を読むたびに感じることがある。これまでに幾多の読み応えのある、おもしろい小説に出会ってきた。しかし、それはあくまでも原書を日本語に訳して伝えられた二次情報に過ぎない。だから、原書とその邦訳物は別の作品なのではないだろうか。仮に原書で読んだとしても、それを頭の中で日本語に反芻しているのだから同じことではないのだろうか。日本人である限り、ネイテヴが感じる面白さを味わうのは永遠に不可能ではないのか。そう思うのである。1953年に書かれた文章が50年以上もたった今、なんの違和感もなく受け入れられるものだろうか。日本の小説でさえ、その時代のものは古臭さを感じる。それは古典とか文芸書とか、そういう次元ではなく、単純にそう思うのである。邦訳小説でも同じことだろう。その当時にはその時代なりの訳し方があって、その時代の日本小説に合わせたような邦訳となっている。今回2007年に村上氏が邦訳した「ロング・グッド・バイ」はまさしく現代の「ロング・グッド・バイ」となっていて、彼の「ロング・グッド・バイ」となっている。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:17:01 (389 ヒット)

東野圭吾 著 ★★★ 文藝春秋

どんな秘密があるのだろうか、興味津々で手に取った。
スキーバス事故で死亡した奥さんの魂が、そのとき奇跡的に助かった11歳の娘さんに乗り移った。それは世間への秘密。その事故で死亡したバス運転手さんの秘密。寝る間を惜しんで、過労気味になりながらも自ら残業を申し出ていたその訳とは。その運転手さんの別れた妻の持つ秘密。娘が次第に大人になっていくにつれ、父と娘がお互いに持ち始める秘密。ある日突然、娘の心が帰ってきた。そこから始まる新たな秘密。
厚手の本であるが、軽く読める。意識してはいないのだろうが、表現にはこだわらず、さらりとモチーフを描きあげている。なおかつ長編としての整合性がうまくとれている。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:16:14 (367 ヒット)

東野圭吾 著 ★★★★ 角川書店

よく練られているミステリー。伏線もたっぷりと、また違和感もない。伏線の一話一話自体の完成度も高い。悪ではあるがなんとなく憎めないような登場人物が幾人も登場し、これはコミックなのではと思わされないこともない。本の題名から、おぞましく憎悪に満ちた壮絶な物語を想像していたが、さらりとかわされた感じ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:15:23 (362 ヒット)

谷甲州 著 ★★ ハヤカワ文庫

全編が山の話。いわくありげな一人の男によって寄せ集められた即席の隊が山に挑む。何か事件が起こりそうな出だしであったが、物語的にはそうでもない。山登りのタクティクスに関しては忠実に描かれているので、その辺は楽しめる。核心は主人公にときよりおそいかかるデジャブ現象がはたして彼らの山登りとどうリンクしてくるのか、というところだろう。だが、それは細い支尾根に留まって、太い尾根とはならなかったようだ。山をやっているものなら誰もが抱くであろう、「夢想」=「こんな場面が来たらどうしよう」、という想いを断片的に書きとどめた、そんな本となっている。ごく浅い夢物語である。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:14:48 (311 ヒット)

デニス・ルヘイン 著 ★★★★★ 角川文庫

古書店で何気なく手に取った一冊。それが予想だにしなかった面白さ。だから本読みはやめられない。
出だしはやや戸惑う。話の展開についていけない。なんで?30ページくらい進んだところで、最初から読み返す。やっぱりなんか変。しかたなく、巻末の解説に目を通す。やっぱりか、本著は前作に関連したシリーズ物だった。たいがいこの種のシリーズものでは、導入部やところどころに前作品のフラッシュバックを入れて、前作を読んでいない者にも登場人物にたいして違和感無く入っていけるような配慮がしてあるが、この本ではそれが極めて少ない。だから、前作を読んでいないものにとっては、出だしにとっつきにくさを感じさせる。だがしかし、全体を通して繰り出される洗練された小気味のいい文章、ウイット感あふれる会話に引き込まれてしまう。多くは語らないが、その文間から読み取る楽しさ、それが詰まっている。事件の展開そのものもサスペンスに富んでいるが、登場人物の心模様にもわくわくさせられる。現代が生んだ大人の小説のひとつの形がみえる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:14:10 (390 ヒット)

福井晴敏 著 ★★★ 文藝春秋

かなりの長編、読むのに力がいる。登場人物と設定がパターン化しているのが気になる。一見うだつの上がらさそうな公安の警部補、実は筋が通ったダイハード野郎。自衛隊の特殊部隊からはみ出たテロリストとそれを追う特殊部隊の攻防。表に出してはいけない存在だけに、闇から闇に葬り去られなければならない。制圧に関わる様々な組織間のエゴ。そして、ダイハード野郎との軋轢。テロリストとそれを追うかつては同じ特殊部隊の仲間だった工作員との心の通い合い。そして最後は両者の息詰まる決闘と予想された結末。テロの技法、兵器の特殊性はやや凝った感があるが、物語としては手に汗を握るという緊迫感に欠ける。それはやはり基礎となる要素のパターン化からくるのではないだろうか。兵器の作動方法の詳細な記述の仕方はトム・クランシーのそれに似通っている。根本的な何かが足りない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:13:30 (381 ヒット)

ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★★ 文藝春秋

星二つにしようか五つにしようか迷ったが、間をとって、やっぱり三つ。
今回もいきなり連続殺人事件に駆り出されるリンカーンとアメリア。さて、どんな殺人鬼が待っているのか興味津々。『魔術師』で、推理小説の「誤導」とその「メソッド」を学習させられた今となっては、なんでも疑り深くなる。それでも、やっぱり騙されてしまう。伏線に次ぐ伏線が終盤には全てジグソーパズルのようにピッタシと埋まってしまう。その「伏線=誤導」自体にも起承転結があり、すべての伏線が縄の如く絡みあって、物語自体の起承転結を構成している。推理小説かくありきという見本中の見本。だが、星五つに出来なかったのは、「誤導」があまりにもすっきりとうまくはまってしまい、度重なるどんでん返しにややしつこさを感じざるを得なかったからだ。一つ一つは大きな波であるのには違いなく、それ自体秀逸なのだが、もっと大きな超がつく大波が一つ全体を覆って、深い余韻にひたれたら、なおよかっただろう。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:12:59 (406 ヒット)

ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★★ 文藝春秋

今人気絶好調のジェフリー・ディーヴァー。出す本出す本、売れに売れている。一頃話題となった『ダヴィンチ・コード』のダン・ブラウンはどこへ行ったのやら。図書館での予約もなかなか順番が廻ってこない。みんな新作を楽しみに待っている。この手の連作ものとしては、息が長い方だろう。自分の中でも、アン・ライスのヴァンパイヤー・クロニクル、トム・クランシーのジャック・ライアンシリーズに匹敵する。
今回の悪役はマジシャン。連続殺人の手口は魔術師のごとく。手の込んだネタでライムはもとより、読者をほんろうする。これでもかこれでもかと繰り出されるトリックは見ごたえがある。騙されてはいけない。おもしろいことは面白いのだが、はらはらどきどき感が今一。全編まるまる緊張感が漂い、怖ささえ覚えたシリーズ初期と比べれば今一歩というところかな。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:12:34 (337 ヒット)

立松和平 著 ★★★ 新潮社

ふたら、「にこう」とも読み、日光の語源になったとのこと。
男体山と中禅寺湖に育まれた一青年を通して、山の暮らしと自然を描いている。読み始めてすぐ、戸惑いを感じる。海外小説の邦訳物と明らかな違い。日本語が丁寧に書かれている、一語一語吟味して書かれていることがよくわかる。これが邦訳ものとの大きな違い。もちろん、国内の物書きにも言葉を大事にする作家とそうでもない作家とがいるのだろうが、立松和平は特に言葉に敏感な方に違いない。おそらく作者は遅筆だと想像される。邦訳物を読んでも、所詮それは訳文にすぎず、原作の文章を完璧に表現しているとは言いがたい。最近ジェットコースターミステリーが流行り、自分もその手のものを好む傾向がある。そんな早い展開になれていると、本書のようにゆっくりと、一歩一歩山歩きをするような文章運びに出会って、違和感を覚えたのであった。しかし、すぐに慣れ、心地良さえ感じるまま、物語へと引き込まれていった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:12:03 (379 ヒット)

フレデリック・フォーサイス 著 ★★★ 角川書店

『オペラ座の怪人』をもじったのかとも思ったが、フォーサイス大先生がそんなことするはずもない。読んでみると実に小気味よく、期待にたがわず、とても楽しめた一冊であった。短編と中篇の間とみるが、一分のスキも無い。流石である。
ミュージカル『オペラ座の怪人』は見たことがなく、内容も知らない人でもこの名前だけは聞いたことがある人は多いと思う。小生もその一人。中身は全く知らなかった、この本を手に取るまでは。オペラ座に怪人20面相みたいな盗賊でも現れるかとも思っていた。だが、そうではなかった。この『マンハッタンの怪人』は『オペラ座の怪人』の続編である。オペラ座の怪人が去ってから13年後の物語。ミュージカルの設定が忠実に受け継がれており、悲哀に満ちた怪人の心情もうまく再現されている(と思う)。巻末には、フォーサイスによる『オペラ座の怪人』の原作(小説)の分析が載せられている。これも興味深い。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:11:23 (437 ヒット)

半村良 著 ★★★ 講談社

とても、とても長いお話し。
初めて呼んだのが約30年前と記憶する。当時はいくらか話題に載っていたのだろうか、定かでないが、自分はわくわくして読み始めた。単行本が先に出て、それから文庫本が出るという世の常にならって、この本も文庫版が出るのを待って買い求めた。しかも、第1巻から6巻まで同時に出るというわけではなく、一年か半年後に次巻が出される、という具合。その間、いつ本屋さんに並ぶのか、気をやきもきさせて待っていた。そんなものだから、数年かかって6巻目を読み終えたとき、やっと終わったのか、という思いであった。だが、その後完結編が出されたらしい、と知った。しかし、いつの間にかそれは記憶の底に仕舞われてしまっていた。なぜなのかというきっかけはないのだが、そういえば、『妖星伝』があったなと、ふと思い出し、改めて最初から読み返し、今回は3ヶ月近くかかって読了した。

昔読んだように、最初からおもしろい。ところが、話が進むにつれ、SF的要素が薄くなってきて、なにやら禅問答っぽい部分が多くなってくる。期待した最終巻に至っては禅問答そのもの。ある意味、最近人間の死とはなんぞやと考えることが多くなってきた小生にとって、また、よき参考書となった。今これを読んだことは何かの導きかもしれない。しかし、第1巻を読んだときの強いインパクトから、これはどうなるのかと、エンターテイメント性への期待感を膨らませていただけに、少しずれていったのは、やっぱりがっかり。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:10:48 (389 ヒット)

デニス・ルヘイン 著 ★★★★★ 早川書房

1918年アメリカが舞台。この頃からアメリカは闇の時代へと突入する。ベーブルース、アイルランド系警官、黒人の3人が主な登場人物。自由な国アメリカ、雑多な国アメリカ、暗い部分のアメリカ、この3人が絡み合って、そのアメリカを映し出している。どこをとってもアメリカの物語。人間が生きていくということ、生きていることの実感、本質とはなにか、それが全編に漂っている。はたして自分は一度でも命をはったことがあるのだろうか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:10:11 (453 ヒット)

手嶋龍一 著 ★★★ 新潮文庫

先に読んだ『ウルトラ・ダラー』が今一だっただけに、今度もあまり期待しないで読み始めた。が、しかし、この本は読みごたえがあった。さすが第一級のジャーナリスト、情報収集と分析能力はピカリと光るものがある。前作から判断してフィクションの書き手としては、B級以下と言わざるを得なかったが、時代の断片を克明に暴き出してくれた本書からは、A級ノンフィクション作家に価すること十分である。
対岸の出来事だと多くの人思っていた湾岸戦争だが、それは日本にとって敗北だったと言わしめた。その根拠が本書に記されている。戦争に参加できない日本に突き尽きられた財政負担、130億ドル。これを巡って、日米内外での息詰まるやりとりが事細かく記述されている。当時国会で議論されたことの裏に何があったのか。お互いに行き来する外交官、政府首脳等のそのわけは。その一つ一つに本当に深い意味があったことを今知った。報道されていることの一面だけでは読み取れない真の外交というものを教えてくれた。小生の湾岸戦争に対する認識は本書によって大きく変えられた。感謝したい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:09:42 (379 ヒット)

ジェフリー・ディーヴァー 著 ★★★ 文藝春秋 

リンカーン・ライム シリーズ。図書館から借りてきたこの本はあちこちに傷みが見られる。それは多くの人の手に渡って来たことを物語る。表紙カバーの端は擦り切れ、背表紙からページが剥がされ、分厚い本の途中でパッカリと割れている。ある意味、これほどまでに読みこまれてきたこの本は幸せ者だ。『ボーン・コレクター』以来、リンカーン・ライムシリーズは人気が高い。図書館での順番待ちも毎回のこと。その期待にたがわず、今回も読み応えのある作品に仕上がっている。単なる謎解きに収まらず、解放奴隷という歴史的背景への知的好奇心も満たしてくれる。けなげで、聡明、実直に生きる一人の少女の存在が作品全体をいい雰囲気に仕上げている。アメリアやリンカーンは本書ではほんの脇役に過ぎない。140年前の事件と一人の少女をめぐる事件が綾なすサスペンス。そして最後にはほろりと涙をさそう幕引き。おもしろさてんこ盛りだ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:08:25 (390 ヒット)

ジョン・ル・カレ 著 ★★★ 集英社

「訳者あとがき」にもあるように、この人の作品は読みづらい。何でか?唐突な場面展開にとまどい、交わされるセリフの一つ一つにとまどってしまう。一見何の意味も無い、あるいは場違いのように思えてしまい、考え込んでしまう。何か裏があるのではと、想像力を最大限に働かせて読み進む。一から十まで物語りは描かれていない。いったいここに書かれた事件の真相はなんだったのか、把握できない。それは想像と創造の世界の極みといっても過言ではない。あえて部分部分を伏せて抜かれて書かれた物語、そんな風にも思えてしまう。おそらく作者は推敲に推敲を重ねて物語を完成させたのだろう。ときには部分を削り、ときには順番を入れ替え、ときには意味もなさそうなシーンを付け足したりしながら。作者の創造力と読み手の想像力、それをうまくシンクロさせないとこの作品は本当に読みづらい。


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