投稿者: hangontan 投稿日時: 2024-3-26 17:52:41 (8 ヒット)

コルソン・ホワイトヘッド、三作目。
少年院を舞台とした1960年代の実話をもとに書かれているというのだが、まぁ、こんなことが本当にあったのかと思わされた作品。この時代もまだ、黒人は虐げられ、人権はあってないようなものだったらしい。「ひどい時代」は続いていた。描かれているのはアメリカ繁栄の黒歴史であり、黒人が受けた差別と暴力の実態。単なるノンフィクションよりも、小説という形をとった方が心に響くものがあるという例の一つだと思う。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2024-3-26 17:51:19 (6 ヒット)

強烈なパンチをくらった作品だ。
物語はジェットコースターのように進んでいき、一瞬の瞬きも許さないスピード感が作品全体を包む。根底に流れているのは黒人たちにとっては暗黒の時代。「地下鉄道」を使って、黒人奴隷が「自由黒人」を夢見て所有者から逃げていくという設定。

初めは「地下鉄道」は黒人の逃亡を促す組織の符丁かと思ったが、作品中では映画「大脱走」で描かれたような手掘りのリアル地下鉄道だった。トロッコのような地下鉄が来るまでかくまってくれる駅長も出てきて、ある意味ファンタジーの要素も感じられる。「地下鉄道」を使った逃亡は黒人奴隷の受難、暴力、理不尽からの脱却を意味し、自由へのあくなき渇望の象徴といえる。「ひどい時代」を描いた文句なしの秀作だ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2024-3-26 17:49:21 (6 ヒット)

「ハーレム・シャッフル」コルソン・ホワイトヘッド 著 ★★★ 早川書房
時代は1959年、舞台はニューヨークのハーレム、黒人の家具店主が主人公。黒人問題とかそれに関連する人種差別、貧富の差を主題にするには、やはり「黒人」をルーツに持つ作家の方が作品に説得力があるような気がする。彼らにしか描けない、分からない、そんな世界があるような気がする。結果的にそうなっているにすぎないのかもしれないが。
まず、ハーレムの路地裏界隈の描写が秀逸で、空気感や匂い、住人の生活が目に浮かんでくる。それが骨格となって物語全体を形作っている。邦訳の仕方もあるのだろうが、文章使いにも凝ったところがなく、すぐに物語に入っていける。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2024-3-26 15:56:55 (6 ヒット)

1954年、少年達の冒険物語。終盤にきて、表紙絵が作品の内容をうまく表していて納得。こういうのに出会うと、うれしくなる。
主人公の兄弟二人が「リンカーン・ハイウェイ」を辿ってカリフォルニアの母親とを目指すというのが主題なのだが、脇役の物語もほぼ同等に描かれている。いってみれば、作品中のワン・チームといったところ。いくつもの挿話を巡っていると、彼らの一つ一つの物語に集中してしまい、旅の目的が脇にやられているようにさえ感じてしまう。だが、それぞれの挿話なくしてこの作品の味は生まれず、これは前に読んだ「モスクワの伯爵」と同じ枠組みといえる。
さらに。物語にはいくつかのキーワードがあって、「イン・メデイアス・レス」「スチュード・ベーカー」「アバーナシー教授による冒険譚の要約」「クノセス」など、それらを読み込み自分の中で消化していくのもまた楽しみの一つとなった。
全体的な印象としては、「モスクワの伯爵」が「大人の童話」ならば、本作品は子供に夢を託した「大人のファンタジー」といえる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2024-3-6 17:31:56 (13 ヒット)

これまでロシア革命をモチーフとした小説、ノンフィクションをいくつか読んできたが、それらは悲壮感、辛さ、闘争の過程などを描いた、どちらかといえば「重い」作品ばかりだったような気がする。

だが、この作品は違った。出だしこそ主人公である伯爵のホテル幽閉という場面から始まるが、その後の展開はまるでおとぎ話のよう、まさに大人の童話という表現がぴったしの内容で、この手があったかと、思わされた作品であった。

モスクワの名門ホテル・メトロポールにふさわしい紳士として、主人公は英知、ウイット、誠実さたっぷりに描かれる。物語は伯爵の身に起こる様々な日常を積み重ねて描くという形式をとっていて、その挿話それぞれが短編として完結しており、それ自体完成度は高く読み応え十分。邦題は原題の直訳となっているが、「伯爵と愉快な仲間達」にしてもよかったかも。伯爵と母娘二代に渡る少女との交流が小気味よく、ほほえましく描かれていてる。さらに、ときにはスリルも交えて、布石も打ってあって、ヒヤヒヤする場面もあるが、それでいて心が温まり満たされる作品であった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-12-13 5:58:09 (46 ヒット)

本作品はひたすら本を愛する人々を描いた物語。
前に読んだ作品もそうだったが、著者は一途に何かに打ち込む人々が好きなのだと思う(嫌いな人はめったにいないと思うが)。主人公の書店主フィクリーの日常はもちろん本、本、本、本なしでは考えられない。そんな主人公の本に対する愛が溢れんばかりに描かれている。あるいは、著者の心の内を書店主に投影させているのかもしれない。はたして、本の虫たる主人公にどんなドラマが待っているのか、ホップ、ステップ、ジャンプ、とページをめくるごとに面白さが加速されていく。登場人物のプロット仕立てや物語の進行も軽やかで、読んでいる最中からも読後も心あったまる良本だった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-12-13 5:57:31 (13 ヒット)

本作品はひたすらゲームを愛する人々を描いた物語。
ゲーム好きが高じてゲーム製作に打ち込む男女の交流が主題となっている。ここに出てくるのはゲームなしでは生きられない人種ばかり。彼らのゲームに対するひたむきさ、情熱は大したものだ。私はゲームはしたことがないけれど、そんな彼らの生息域が本作品を通して垣間見られる。ゲームとは無縁の私でも楽しく読めたのだから、ゲーム好きの人にとってはたまらない作品だと思う。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-11-15 16:34:29 (30 ヒット)

白水社と言えば、登山者のバイブル「日本登山体系」の出版元。登山を始めたころ、「山渓」や「岳人」という月刊誌もあったが、情報源としての信頼性とバックボーンとしての地位は揺るぎないものがあった。白水社からまず受けるのはそんなイメージ。

それはさておき、本書は様々な背景を持つ英国黒人女性たちの生きざまというか闘いを描いてみせている。何との闘いかというと、それは性差別であったり、肌の色であったり、人種的問題、国籍、幼少期のトラウマ、家族問題、トランスジェンダーとしての苦悩であったりもする。だが、ここに登場してくる女性たちはとても強く、困難に正面から立ち向かっていく。そして、それぞれの勝利の形となって生き抜いていく。それらが、実は大変なことなのに、ウイットに富んだ文体で、さも何でもないことのように淡々と描かれている。それが、読んでいて小気味よい気持ちにさせてくれる。人生楽しんでなんぼだ、また、自分の知らない世界へと誘ってくれたという点からみても、とても面白かった。
それにしてもこの本の値段は4500円、ものすごく高い。いったいどんな人が買うんだろうか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-10-25 15:53:57 (23 ヒット)

訳者あとがきには、「ノンフィクション小説」とあるのだが、事実をもとにした小説の意だろうか。どうやら、ホロコーストに巻き込まれた著者のルーツを辿る旅であるようだ。

この小説もまた現在、過去のパラレルストーリー、最近はこの手の作品を手にすることが多い。前半は「シンドラーのリスト」を思わせる第二次大戦でのユダヤ人の逃避行。ナチだけではなくフランスも収容所送りの片棒を担いでいたことを、この書で初めて知った。最近読んできた本では良きにつけ悪しきにつけフランスの「大国」ぶりを再認識することが多かったが、本書でも同じ感触を得た。後半は、家族分かれ分かれになった後、一人残された(故に本作品が書かれることになるのだが)作者の祖母の足跡に迫り、現代への繋がりの糸口となっている。
今のフランスの若者はこの「フランスの黒歴史」をどのように読むのだろうか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-9-27 12:13:33 (33 ヒット)

ジャンヌ・ダルクのことは「オルレアンの少女」として見知っているだけで、その実態については全く知らないでいた。彼女が活躍した頃というのは、地方地方に貴族がいて彼らがその地域の領主となって、その地区の自治を担っていたようだ。フランスの王様といえども、彼らをすべて掌握してたわけではなく、貴族はその時々の利権によって王様に付いたり離れたりしており、戦う相手は、貴族であったり、王様であったり、他国の貴族あるいは王であったりで、そのたびごとにその地域の統治者がコロコロ変わっていた。日本の戦国時代にも似ていないことはないが、節操というものが全く感じられないのが、日本と違う点。あくまでも本作品から読み解く限りだが。

この作品では混沌とした時代に生きるいわいる正規軍ではない傭兵の生き様を市民の生活と絡めておもしろおかしく描いている。そして、恋心多き主人公のピエールと波乱万丈にとんだジャンヌとの物語。いつもの通り漫画チックな軽い娯楽作品だが、ピエールのその仲間の動向に一喜一憂させられながら読み進めていった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-9-15 8:15:33 (26 ヒット)

久しぶりに腹いっぱいになったエンターテイメント作品。
現代のハリウッド女優と1930年代から50年代に輝いた女性パイロットというダブルキャスト。時代を超えた二人の女性を巡るパラレルストーリーだが、これがまた二人の心の葛藤もうまく同調していて、物語の展開に目が離せない。そして思いもかけない結末。脇役の設定も手抜かりなく、最初から最後までよく練られた作品だ。分厚い本だが、一気読みした読後感は最高だった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-9-15 8:14:31 (25 ヒット)

冒頭と末尾は誠に格調高い筆使いだ。特に冒頭に描かれたナポレオンの荘厳な戴冠式からはこれから繰り広げられる物語への期待感が高まる。が、それ以外は作者の真骨頂ともいえる漫画チックな文章。現代風な口語体の表現が空振りしているように思え、違和感を覚える。スケールは大きく、ナポレオンと彼の生きた時代を端的に捉えていて、歴史小説としては秀作だと思う。

ナポレオンの邁進ぶりは、マケドニアのアレクサンダー、三国志の曹操を彷彿させる。とにもかくにも前進あるのみ。三者に共通するのはただ単に偉大な統率者という点だけではなく、三者とも海戦に弱点があり、それを克服すべき手を打っていったということ。

この作品を通して、当時のフランスの立ち位置というものを改めて理解することができた。また、すぐ後に起こるクリミア戦争へのフランスの関りも、歴史的な流れということから十分に納得できるものであった。ただ「クリミア戦争」だけをみていては気付かなかった点である。歴史は突然起こる点ではなく、線の延長戦上にあるということを再認識させてくれた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-8-19 15:46:50 (28 ヒット)

「フーコーの振り子」ウンベルト・エーコ 著 ★★ 文藝春秋
「薔薇の名前」から始まった、キリスト教、十字軍、トルコ、ロシア関連の作品を一巡して、再びエーコの作品に戻って来た。少しは著者作品に臨む下地ができたかなと思っていたが、あにはからんや、全く太刀打ちできなかった。何を言いたいのかさっぱりわからない、もちろん主題もなんなのか?「薔薇の名前」を凌ぐ難解さ。参りました。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-8-19 15:45:49 (25 ヒット)

直木賞作品だとのことだが、はたしてそれだけの価値、重みがあるかというと、どちらかというとやや軽めの内容。調子は小気味よく、文章も平易で飾らない。物語性もあってエンタメ的な作品。全体を通して音楽でいうところの「編曲」に軽さを感じ、少女漫画を彷彿させるような筆遣い。そこが買われての直木賞という気がしないでもない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-29 17:26:26 (32 ヒット)

ヴァランダーシリーズとしては珍しく、個人的なアヴェンジャーを中心に据えた物語。だが、とても悲しく、なんともやりきれない事件である。主人公の警部ヴァランダーが感じた思いを、多くの読み手が感じ取ったことだろう。
世界の富と繁栄とは裏腹に、貧困の連鎖とそれから生まれる哀しい結末。やってられない気持ちになるのはヴァランダーならずとも。やるせなさと虚しさにヴァランダーは深く沈んでいくだけ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-29 17:24:52 (28 ヒット)

ワールドワイドな実業家で慈善事業にも尽くし、国内外から支持されているスウェーデンきっての著名人。その裏の顔を暴きとる、いってみれば、題材としてはよくあるパターン。だが、この作品でもスウェーデンという国の事情、特殊性が単純なモチーフにひと花添えている。ヴァランダーシリーズの特色はスウェーデンの田舎町で起こった事件でも、それがこの地方だけで完結しないで、今世界が抱えている問題とリンクしているということ。それを、あまり複雑化しないでストレートにスウェーデンで起こった事件に反映させている。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-12 17:31:14 (31 ヒット)

2015年67歳で没したヘニング・マンケルの闘病記というか遺稿集。彼の人生は16歳で高校を辞め、独りスウェーデンを離れ異国の地に旅立つ、というところから始まった。自分が高校生だったころ、そんなことは露も考えてもみなかった。スウェーデンという国はそんなにも精神性が高い若者が存在するところなのだろうか、と思ってしまう。衣食住がまず先に来て、安住の地にしがみついて来た人間には考えられない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-12 17:30:32 (32 ヒット)

刑事ヴェランダー・シリーズ、第八作。
シリーズを続けて読もうと思っていたが、図書館に在庫がなく、とりあえずあった作品を手に取った。
この作品がスウェーデンで世に出たのが1998年、ネット社会は黎明期から成熟期へと急速に移行しつつあった。そのIT社会の影の部分を描いてみせた作品だが、これまで読んできたヴェランダー・シリーズと比べて手が込み過ぎている感がある。というか普通の推理小説に近寄り過ぎてきた感じ。過ぎたるはなんとかという印象がぬぐえない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-12 17:29:47 (40 ヒット)

刑事ヴェランダー・シリーズ、第三作。
この作品は前二作と比べてかなりパワーアップ、スケールアップしている。物語の展開も前二作よりは凝っている。ストーリー性をだけをとっても最上級の部類に入るだろう。スウェーデンという国の地政学的な特異性もさることながら、この作品では作者の実体験が十二分に生かされているようだ。「スウェーデンは出る人と入って来る人から成り立っている」ということらしいのだが、作者自身のアフリカ体験がなければこの作品は生まれてこなかったかもしれない。もしかしたら、この作品で描かれている世界を描きたくて、作者は刑事ヴェランダー・シリーズを手掛けたのかもしれない。とても余韻が残る秀作であった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-12 17:28:38 (35 ヒット)

刑事ヴェランダー・シリーズの第二作。事件の展開がこの作品のキモ。スウェーデンで起きた事件がバルト三国、そしてソ連崩壊の物語へと繋がっていく。今でこそソ連崩壊後の混沌を知っていはいるが、もしこの作品が発表された(1992年)直後に邦訳され手に取っていたら、読み方もちょっと変わっていたかもしれない。まさか、最近読んだ「ソ連崩壊」についての知識が、この作品を読み解く上での重要な鍵となろうとは、偶然の一致とはいえ、不思議な巡り合わせと言わざるを得ない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-7-12 17:27:53 (38 ヒット)

著者の作品を2冊続けて読んで、ちょっと変わってるな、と思ったので、読み込んでみることにした。
ヘニング・マンケルを一躍有名にせしめた「刑事ヴァランダー」シリーズ、その第一作がこれ。これまでいくつかの刑事ものを手に取ってきたが、それらと何が違うのだろうか。それは決して違和感とうネガティブな印象ではなく、推理小説としての完成度が高いことに加えて、主人公への距離感がとても近く感じられるということだと思う。かといって、やたら深い心理描写があるわけでもない。頭脳明晰なスーパー刑事でもない。布石があちこちに散りばめられているわけでもない。淡々と仕事をこなしていく主人公を追っていく、その描き方がどうも他の刑事ものとは違っているようなのだ。
気になった点が一つ、邦訳にあたっての違和感を覚えた場面がいくつかあった。スウェーデン語は解さないが、日本語的にも変な言い回しが散見された。もちょっと丸く邦訳してもよかったのではないかと感じた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-6-6 17:30:03 (39 ヒット)

設定は先に読んだ「イタリアン・シューズ」の10年後となっている。前作ほど主人公と彼を取り巻く連中の特異さに驚かされないが、本作品はちょっとしたミステリー仕立てとなっている。

しかし、ミステリーの謎解きよりも、主人公の内面描写に強く惹かれるものがある。この作品を書いたときの作者、主人公、そして読んでいる自分の年齢が近いことがそうさせているのだと思う。描かれているのは「老化」、人間として避けることのできないこのことにどう向き合うか、そのことがこの物語のテーマ。今、自分のこの歳でこの作品を手にしたのは、偶然とはいえ何かしら意味のある事のように思えてくる。20代、30代の人が読んでもこの心持に同調するのは無理ではないだろうか。彼らはこの作品をどう読み、どう感じるのか、とても気になるところではある。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-6-6 17:26:09 (42 ヒット)

主人公が氷結した海を割って沐浴する、というかなり異質な場面から始まる。自分には全くそんな経験はないのだが、まるで遠い昔そんなことがあったかもしれないという、不思議な感覚を覚えた。主人公の行為に自分を重ね合わせて、俯瞰しているようにも思える。

主人公は世俗から隔絶した孤島に一人住んでいる。氷結した海で沐浴すること自体かなり変わった人物像を想像させるが、描かれている生活様式もそれに輪をかけて変わっている。冒頭で、そんな彼を描くことで、うまく読者を作品の中に引き込んでいる。
だが、物語が進むにつれて登場する人物は、もっと変わった人達ばかり。主人公だけがまともに思えることすらある。北欧のそしてスウェーデンの暮らしに、一風変わっているが、どっぷりと浸らせてくれた作品であった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-6-6 17:23:25 (42 ヒット)

タイトルで読むか表紙で読むか、この作品はその両方に魅かれて手に取った。昨今、こんな表紙絵の本が当たり前のようになってきた。昔は、タイトルに目がいって手に取ったことも多かった。今は、タイトルと表紙絵で消費者を引き付けるのが通常化している。題名だけよりも表紙絵を加えた方が、より情報量が多く、読み手心をくすぶる作用があるのかもしれない。

さて、この作品、「YAエンターテインメント」とカテゴリー化されている。YAって何?ヤング・アダルトの略らしい。じゃあ、ヤング・アダルトっていうのは・・・ウイキによると「日本では13歳から19歳を読者層として想定している図書館が最も多い」とか。しかし、これが本当にYAなのか?物語は結構入り組んでいて、ヤング・アダルトが読むにしては、ちょっとハードルが高いのではと思ってしまう。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-5-29 18:25:18 (45 ヒット)

ネット上の書評は概ね高評価だが、自分的には今一つパッとしない。
著者得意のどんでん返しの連続がチープでイージーすぎて、何でもありとなってしまっている。誰か、弟子にでも書かせているのではないかと勘繰りたくもなる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-5-15 17:08:51 (50 ヒット)

先に読んだソビエト崩壊の日々を綴った「レーニンの墓 帝国最期の日々」もそうだったが、本書もロシア革命を目の当たりにしたジャーナリストによって書かれている。

本書を手に取るまでのロシア革命の印象は、ツアーリの退位と民衆による社会主義国家の成立、と思っていた。だが、事態はそんな単純なものではなかったようだ。明治維新も決して楽に成し遂げられたものではなかったが、ロシア革命も一筋縄ではいかず、様々な組織(ソヴィエト)、委員会、軍隊での意見の対立や武力行使の結果、最終的にレーニンが率いるボリシェビキに収斂されていったようだ。著者は自らそれらの集会や闘争現場に居合わせて、その一部始終を見ることに(体験する)ことになり、それを臨場感あふれた筆致で克明に描いている。あまりにも多く登場する組織に、最初はついていけないが、また完全に理解するにはこの本一冊では無理、大筋だけを追っていても、ロシア革命のダイナミズムは十分伝わってくる。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-4-26 10:03:31 (53 ヒット)

現代ロシア関連の本三冊目。いずれもインタビュー形式で、市民の生の声を通して、今のロシアを伝えようとしている。先に読んだ2冊も信じられないような話ばかりだったが、本書はさらに度を増して、本当にこんなことが起こっているのかと勘繰りたくなるような、ゲスなロシアの現実ばかり。100年前ツァーリからの解放を勝ち取ったロシア革命の後も、30年前ソ連崩壊の後も、庶民の不満と混乱、混迷はさして変わらないように思える。

ソ連が崩壊し、新生ロシアが生まれたものの、官僚体制はソ連当時のものを引き継ぐしかなく、KGBもFSBを初めいくつかの派生組織となって生き残り、その影響と支配力はソ連時代となんら変わりはない。旧態依然とした官僚と元KGBに繋がった者だけが、新生ロシアの恩恵を受けることがでる。つまり、資本家と官僚と軍とマフィアの癒着。それが敵の排除という形になって現れ、闇の支配が市民生活を覆っている。さらに、それを見て見ぬふりをする国家。元KGB出身のプーチン体制はそんな背景がある。はたして、これを「壊す」者が次に現れるのか、たとえそうなっても、また更なる混迷が待っているのか。さっぱり、わからない。

邦訳の仕方にも問題があるのだろうが、やたら「イデオロギー」という言葉が出てきて、気になった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-4-8 16:58:39 (51 ヒット)

著者は当時ワシントン・ポストの記者で、ちょうど、ソビエト崩壊のそのときモスクワに赴任していた。グラスノスチとペレストロイカ真っただ中のソ連を目の当たりにし、幸運にも、その終焉に立ち会うことになった。記者としてこれにも勝る機会はめったにないだろう。その直後に書かれたせいか、推敲のための時間がとれなかったのか、少しまとまりに欠ける感がある。それでも、ゴルバチョフから始まったソ連の変体の模様と混沌は十分に読み取ることができる。

日本版はそれから十数年たって発行された。崩壊後のロシアは苦悩の連続で、それを納める形で出現したプーチンによって、またさらなる変体を遂げようとしている。日本版序文にはその辺の諸々のことに触れている。曰く、クレムリン主体のソビエト主義の復活。これが、ウクライナ進攻にまでエスカレートしていくとは。つくづく、ロシアという国には民主主義というものが根付かないものなのかと思わされた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-3-8 9:50:07 (54 ヒット)

1991年ソビエト崩壊によってロシアはどうなったのか、人々はどんな生き方をしてきたのか、周辺の国々はどうなったのか、それを知る手掛かりが本書にはある。ゴルバチョフのぺロストロイカ以降、知っていそうで知らなかったロシアの実態が、インタビューを受けた様々な国々、人種、職業、階層の人々の生の声によって語られる。

だが、なんかあまりピンとこない、というか信じられない。本当にこれが今のロシアなのか、近代民主主義国家の姿を呈しているが、実態はそれとはかなり隔たりあるようだ、ロシアに民主主義は育たないのか、それとも似合わないのか。

本書はロシアのクリミア侵攻(2014年)前年に出版されているが、本書から読み解く限り、それは必然であったようにさえ思えてくる。ソビエト解体から20年間、人々が当初思い描いた幸せは万民に降ってはこなかったし、西洋とは等しくならなかった。そこに登場したのがプーチン、そして、ウクライナへの攻撃。ロシアはいったいどこに向かおうとしているのか、人々の思いはこれからどう変化していくのか、興味は尽きない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2023-3-8 9:44:31 (56 ヒット)

昨年のロシアのウクライナ侵攻に触発されて手に取ったということもあるが、自分の興味の流れから辿り着いた一冊でもある。キリスト教の色合いが濃いウンベルト・エーコの小説がその発端で、以後、十字軍、トルコ文化へと導かれ、そして行きついたのが本書であった。

日本の歴史年表には「クリミア戦争」と、たった一行載っているだけで、名前だけは知っていても、それが歴史的にどういう意味があったのかは何にも知らなかった。本書では、実に詳細に、膨大な史料を駆使して、順序だてて、それに関わった国々の事情なども精査しながら、戦争の実態を描いている。かつ、一つも漏らすことがないようにと調べ上げたエピソードが柔軟剤のような役目を果たしていて、飽きのこない歴史絵巻、ノンフクションでありながら、大河ドラマのようなスケールの大きな読み物となっている。

訳者あとがきに「戦闘の現場に戦争報道記者と戦争写真家が登場したのは初めてであった」「国民世論が戦争遂行にとって決定的な役割を果たすことになった」とある。翻って、今般のロシアのウクライナ侵攻ではネットが重要な役割を果たし、居ながらにして瞬時に遠隔の地の状況を知ることができ、全世界の世論の醸造に役立っていることを想うと、歴史の不思議な巡り合わせに感慨を覚えずにいられない。


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