投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-12 6:12:34 (337 ヒット)

立松和平 著 ★★★ 新潮社

ふたら、「にこう」とも読み、日光の語源になったとのこと。
男体山と中禅寺湖に育まれた一青年を通して、山の暮らしと自然を描いている。読み始めてすぐ、戸惑いを感じる。海外小説の邦訳物と明らかな違い。日本語が丁寧に書かれている、一語一語吟味して書かれていることがよくわかる。これが邦訳ものとの大きな違い。もちろん、国内の物書きにも言葉を大事にする作家とそうでもない作家とがいるのだろうが、立松和平は特に言葉に敏感な方に違いない。おそらく作者は遅筆だと想像される。邦訳物を読んでも、所詮それは訳文にすぎず、原作の文章を完璧に表現しているとは言いがたい。最近ジェットコースターミステリーが流行り、自分もその手のものを好む傾向がある。そんな早い展開になれていると、本書のようにゆっくりと、一歩一歩山歩きをするような文章運びに出会って、違和感を覚えたのであった。しかし、すぐに慣れ、心地良さえ感じるまま、物語へと引き込まれていった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-11 6:30:18 (436 ヒット)

中河与一 著 ★★ 新潮文庫

山の本の案内書にはこの作品が必ず出てくる。主人公のストイックな面が山屋に多く見られるそれとダブっているのかもしれない。話の中でも、主人公は見果てぬ恋の行く先として、薬師岳の麓にこもり、山の村で生活を営む。全体からすればわずかな記述なのだが、山に親しむもにとっては俄然と同調してしまう部分だ。様々な言語で訳され、40万部も売れたというから、海外での評価は相当高いらしい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-11 6:23:10 (416 ヒット)

梓林太郎 著 ★★★ 角川文庫 

山の本を探して当てもなく本屋を彷徨うことはよくある。本書もそんな中から見つけた一冊だった。昭和63年に出ている。当時はネットというものはなく、山の本を見つけるのも一苦労、というか偶然に出くわす場合がほとんど。だから、「あれ、こんなところにあったのか」と見つけたときの喜びはひとしお。梓林太郎は山岳ミステリーを数多く書いているが、その中でもこの作品は良くできている方だと思う。山に題材を追っていくと、だんだんネタ切れになっていき、書き出しだけが山に関することだけで、あとは下界に話が持ち込まれていくというパターンは多い。純粋に山だけに絞って書き込むのは、ミステリーとしては難しいものがあるのかもしれない。本書はわき道にそれることなく山での物語を描いている。B級であはるが、中の上の上、といったところだろう。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:19:34 (427 ヒット)

スティーブン・ヴォイエン 著 ★★ 講談社文庫

ピーター・マシーセンに同名のノンフィクション風の作品があるが、この小説はその影響を強く受けている。前者は雪豹を追いつつ自己との対話を描いているが、こちらは完全なエンターテイメント。雪豹や他の希少動物の調査のためネパールの奥地に向かう主人公ら一行を待ち受ける怪しい影。話の筋としては変化に乏しいのだが、トレッキングの雰囲気は十分味わえる。話が進まず、つまらなく感じることもあるが、そこは堪えて読み進む。山の本としての評価は分かれると思うが、読み終えた後は小高いピークに登ったような印象が残った。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:18:16 (519 ヒット)

沢木耕太郎 著 ★★★★★ 新潮社

久々に出た読み応えのある山のノンフィクション。
山野井夫妻のギャジュンカンでの登攀の模様を詳細に描いている。
山岳史に刻まれるであろう壮絶なこの山行のあらましは雑誌で見ていたが、生きて帰って来られたことが奇跡に近い内容だったと記憶していた。そこでは山野井は、わずか数ページ分しかその模様を語らなかった。その信じがたい山行についてもっと知りたいと思っていたのは私だけではあるまい。あまりにもすごすぎる生還劇の一部始終がここに描かれている。
文章に切れがあるわけではないのだが、二人の壮絶な戦いの描写と生きて帰ってきたという事実、がそれを補うにありあまっている。写真、地図が添えてあればなお良かったと思う。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-10 6:16:09 (351 ヒット)

中村保 著 ★★ 山と渓谷社

チベットの東には6千から7千メートル級の未踏の山がごろごろしているらしい。といってもどの辺なんだかピントこない。筆者はその山域に何度も足を運びいれ、未知の山々を調査して歩いた。本書はその紀行と記録の集大成である。この地域は中国にとって非常に難しい領域であるため、入域、登山ともに非常に厳しい制限がる。その悪条件をかいくぐって踏査している。『入ってしまえば、こっちのもの』なのか。
山域的なこともあって、漢字の地名、山名、人名が非常に多く、読むのに苦労する。カタカナばかりでもつらいものがあるが、漢字ばかりでもやはり読みづらい。しかし、雪をまとった目を奪われんばかりの秀峰の写真も載っており、あれやこれやと想像力をかきたてれた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:50:07 (353 ヒット)

ピーター・マシーセン 著 ★★ めるくまーる社
1978年米国ナショナル・ブック・アワード

作家でありナチュラリストである著者は1973年にネパール奥地の内ドルポに出かけた。動物学者GSのヒマラヤアオヒツジの生態調査に同行したものである。また、その生態がはっきり判っていない大型の猫科動物の雪豹も視野にいれてのトレッキングであった。
当時の辺境の地へのトレッキング模様がよくわかり、一緒に旅している感じとなる。また、仏教に深く帰依している著者の心の旅模様も描かれている。
ただ、不信心者の私にはアメリカ人ブッディストが語る精神世界はやや難解であった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-9 6:47:15 (578 ヒット)

谷甲州 著 ★★★★★ 角川書店

昭和9年末から翌年にかけて、厳冬期の早月尾根を初めて踏破したのが立教大学だった。その前にも彼らは冬の鹿島槍天狗尾根、北壁、南アルプスにも輝かしい記録を打ち立てている。昭和11年、いよいよ立教大学はインドヒマラヤのナンダ・コートを目指す。1月には加藤文太郎が冬の北鎌に逝き、2.26事件があったその年である。
この本はそんな彼らの山を描いた限りなく事実に近いフィクションである。プロジョクト・Xを地でいくような、綿密な取材、今に再現された当時の登山模様。なにより彼らの熱き想いが伝わってくる。ヒマラヤへの情熱、資金調達、隊員の葛藤、そして本当に長く遠かったナンダ・コートへの道。果たして結末は・・・。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:40:06 (559 ヒット)

真保裕一 著 ★★ 講談社

表題の作品あわせ三篇からなる、山ばかりの短篇集。
『赤の謎』に載っていた『黒部の羆』も掲載されている。
いずれもミステリー仕立てとしての山はよく描かれているが、ストーリーに今一工夫が足りない。
製本コストを下げるためなのか、紙質が悪いのが気になった。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:38:59 (443 ヒット)

高嶋哲夫 著 ★★ 文藝春秋

B級山岳アクション。冬の穂高、槍ヶ岳を臨む天狗原が舞台。
天狗原に墜落した米軍のステルス戦闘機をめぐる攻防。雪山のシーンが結構多く、臨場感もよく出ている。終盤、たたみ掛けるストーリーは読みごたえがある。己が信じるものに突き進む男の物語だ。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:16:38 (529 ヒット)

真保裕一 著 ★★ 講談社

乱歩賞作家を集めた短編集「赤の謎」に載っている。
源治郎尾根に取付いた二人と、山岳警備隊上がりの山小屋主人がおりなすサスペンス仕立てのお話。遭難者に手を差し伸べたら、それがかつて遭難した自分の姿だった。という小話があるが、それを活かして味付けしてある。
登攀の模様はリアルだ。一つ気になったのが、「源次郎尾根」と書かれていたことだ。小説の中では架空の地名が使用されることはままあるが、これは誤植か、作者のミスのいずれかだと思う。長次郎谷はそのままだし、もし架空の尾根にするなら南尾根とでもすればいい。発音まで同じにする必要はない。富山県山岳警備隊も救助ヘリの「つるぎ」もそのまま出てくる。それとも「源次郎」「源治郎」どちらでもいいのだろうか。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:16:06 (600 ヒット)

一年かかってやっと読み終えた。
帯には「押し寄せる近代化と開発の波の中でヒマラヤの辺境はどこに向かうのか。ラダックに学ぶ環境と地域社会の未来」と記されている。
作者は言語人類学者なのだが、インド北部ラダックに入って「未来への道はひとつとは限らない」ことを確信する。モノカルチャーが全世界を多い尽くすことに対して警鐘を鳴らしている。モノカルチャーは文化の多様性を破壊してしまうからだ。お金とテクノロジーそして道が全てを変えて行く。市場経済の枠の外にあった辺境の地では、貧困という言葉は存在しなかった。開発が入り込んでからは、アンズの木で作られたバター入れはミルク缶の古いものとなり、一日3リットルしか乳を出さないヤクが、日に30リットルも出すジャージー牛に代わっている。
今自分の机の上には所狭しと物がのっている。すべてお金で買ったものだ。日本中、世界中のいたるところで同様の光景が見られることだろう。しかし、すぐにはこの生活からは脱しきれない。我々の何代か後にはまた文化の分散、多様性に戻る日がくるかもしれない。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-5-7 17:10:29 (396 ヒット)

樋口明雄 著  ★ 角川春樹事務所

サスペンス。産廃問題と山の生活をミックスさせて表現したかったのだろうが、どちらも不完全燃焼。人物の書き込みもものたりない。ただ主人公と暮らす犬の存在と活躍が心を和ませてくれた。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-4-26 6:07:32 (561 ヒット)

トレヴェニアン 著 ★★★ ハヤカワ文庫 上・下

ハードアクション。話的には山とはぜんぜん関係ないのだが、中に出てくるケイビングの描写がリアルで結構長く面白い。登攀と相通ずるものを感じた。あきさせないストーリーにはのめりこんでしまう。とにかくスケールが大きい。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-4-26 6:05:18 (620 ヒット)

高行健著 ★★ 集英社

この作品を含めた活動で2000年に中国初のノーベル文学賞を受賞した。人称を変えながら、独白、回想、伝聞などを叙述していく。小説の一場面なのか、回想なのか、はたまた独白なのか次の段落には話が飛んでいる。最初から終わりまでこの調子で、話の筋というものはない。作者自身「文学は個人の声でしかありえない」と言っている。日本語訳も大変だったらく、英語訳の「ソウル・マウンテン」を参考にしたと訳者は言っている。


投稿者: hangontan 投稿日時: 2010-4-25 6:28:54 (621 ヒット)

チベットと聞いて思い浮かべるのは、ダライラマとカイラス。チベット仏教の根底にある輪廻転生ついて、ミステリヤスかつ好奇心をそそるようなタッチで描いている。中国とチベットとの関係についても、「ははーん」と唸らせてくれます。


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