「ロマ」 ジプシーと呼ばないで 金子マーティン 著 ★★★ 影書房

投稿日時 2016-12-10 14:13:21 | トピック: 本棚

「ロマ」という言葉を知ったのはいつか読んだ北欧の推理小説の中だった。
ロマという異端の人種が街の片隅に寄りそって暮らしている。一般市民からはあまりよくは思われていない下層の人々と印象付けるように書かれていた。それが事件と繋がるわけではなく、物語の情景描写の一つ、その街を形作る一つの構成要素として描かれていたに過ぎない。あらかじめロマのことを知っていたらならば、その街のことをもう少し突っ込んで想像出来ていたかもしれない。

ジプシー、ジタンもその意味をよく知らないでいたが、本書からすると、両方とも差別用語の部類に入るらしい。サラサーテのツィゴイネル・ワイゼンという有名な曲も、ツィゴイネル=ジプシー=ロマという意味で使われたようだ。ツィゴイナーと呼ばれていたロマの少年は『ツィゴイナーという言葉はぼくの青春を台なしにした』と、本書の中で嘆いている。今風で言うならポリティカル・コレクトネスとしては通らない言葉のようだ。ロマは彼らと同等にみられることに反感を覚え、自らのアイデンティティーを主張する。

流浪の民ロマの出自ははっきりとわかっているわけではないが、故郷はインド北西部にあり、11世紀初頭、イスラム教徒の侵略がありロマ民族の先祖は逃亡を開始した、というのが通説となっているようだ。その後ヨーロッパで「子供をさらうジプシー」「犯罪者集団ジプシー」との烙印を押され、差別と迫害を受け、ナチスによって相当の数が虐殺さている。そのような歴史から、現在もロマに対する偏見と差別がヨーロッパに根付いており、ロマは厳しい生活環境におかれている。

そんなロマのことを理解してもらうために出されたのが本書だ。
最近イギリスのEU離脱が決まった要因の一つに、移民や難民に対する拒絶感が上げられる。イギリスに限らず、北欧諸国も洗練された国々という印象がある半面。下層民や移民、難民に対する偏見と差別は確実に存在するようだ。

ロマという少数民族を通してヨーロッパの一面を知らしめてくれた一冊だった。



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