「アメリカン・タブロイド」 ジェイムズ・エルロイ 著 ★★★★★ 文藝春秋

投稿日時 2016-12-29 17:25:56 | トピック: 本棚

歳の瀬になって、こんな爆弾を背負い込むとは思ってもみなかった。
北欧のミステリーにハマり込んだこの一年だったが、最後の最後になってとんでもない作品に出会ってしまった。いつもの例にもれず、たまたま手に取った一冊の本。それがそれまで自分が抱いていた小説という概念をひっくり返してしまった。というか、想像をはるかに超えた異次元の産物に出会った感がある。史実と虚構をないまぜにした作品はよくあるが、この作品は「虚構」の部分がとてつもなく破壊的。ガルシア・マルケス、桜庭一樹、ジョン・アーヴィング、とは全く趣を異にする想像力のビッグ・バンとも言える。

JFKのまわりに集まった優秀な人材を描いたノンフィクションにデビット・ハルバースタムの「ベスト&ブライテスト」がある。そこには権力深奥部の人間ドラマと繁栄の中のアメリカの苦悩と挫折を同調させたアメリカの現代史が描かれていて、とても興味深かい内容だった。

本作品ではそこではベスト&ブライテストであったはずの「賢人」が不正と悪と裏切りと堕落にまみれた、訳者の言葉を借りるなら、「異形のモンスター」として描かれている。加えて、ギャング、FBI、CIAなどが複雑に入り乱れ、物語は極めて重層な作りとなっている。作者自身の声で言えば「幻想を打ち砕き、排水溝から星までの新しい神話をつくりあげる時がきた。時代を裏で支えてきた悪党どもと、彼らがそのために支払った対価を語る時がきた。悪党どもに幸いあれ」、となる。この言葉もどこまでが本音なのか推し量ることはできない。
しばらくは、ジェイムズ・エルロイの世界に浸ってみよう。



はんごんたんにて更に多くのニュース記事をよむことができます
http://hangontan.sakura.ne.jp/xoops

このニュース記事が掲載されているURL:
http://hangontan.sakura.ne.jp/xoops/article.php?storyid=1006