「南極風」 笹本稜平 著 ★★★ 祥伝社

投稿日時 2012-12-26 5:23:56 | トピック: 山の本

ニュージーランドの秀峰「アスパイヤリング」のツアー登山で起こった遭難事故。生き残ったガイドが殺人の罪で告訴される。事故は防げたはずという未必の故意が争点となっている。

ガイド登山の遭難事故が報じられるたびに「ガイドの責任はどこまでか」ということを考えさせられる。遭難には様々な経緯、状況があり、一概に論ずるのは難しいという向きもあろうが、私は、お客さんの疾病に起因する場合を除いて、事故の全責任はガイドにあると考えている。お金をもらって、お客さんを山に案内する以上、あらゆる危険性をガイドは考慮しなければならない。安全登山こそガイドに求められる最低の責務である。もし、落石だとか、雪崩だとか、雪庇の崩落が想定外で不可抗力だったといって、責任逃れをするならば、はなからガイドの資格はない。ガイドになるからにはそのくらいの覚悟で臨んでほしい。ただ、それを告発するかどうかは、また別の問題。

さて、本作品では、登頂後の下山中、自然落石が原因で複数の犠牲者が出てしまう。ツアー登山のガイドである主人公は身の危険を顧みず、必死になってツアー参加者を助けだし、下山させようと試みる。その命を惜しまぬ活躍ぶりが物語の中心をなしている。読者は当然ガイドに責任があるはずがないと導かれる。しかし、裁判での判決は有罪。客観的にみればそういうこともあり得るということだ。

だが、なにもそんなシビアな目で読まなくてもいい。アスパイヤリングの魅力は十分に伝わってくるし、どっぷりと山の中に浸らせてくれる作品となっている。

気になるのは、人称の使い方の違和感、紋切調の表現が目立つというところ。この傾向は笹本稜平の作品全般にみられる。しかし、この”くせ”は自然に身についたしぐさのように、なかなか修正できないのかもしれない。


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