「脊梁山脈」 乙川優三郎 著 ★★★ 新潮社

投稿日時 2013-10-29 17:29:55 | トピック: 山の本

山の本に入れるかどうか迷ったが、題名と、山に生きる木地師を描いていることから、山の本に分類した。

物語の先行きに胸躍らせるというよりも、ひたすら字面を追って、その場面場面に浸りきる、そんな風に読んでいく作品だ。文章使いは丁寧で、其処に描かれている主人公もそうだが、作者の実直な性格が伝わって来るようだ。妙な挿話もなく読んでいて安心感がある。宮尾登美子の男性版という感じがする。

この本の中にも描かれているが、木地師のルーツは志賀の近江にあるらしい。良質な木材を求めて、木地師は山から山へ、国から国へと移動していった。「ハタ」という名字が秦に所以があるように、木地師の場合は「小椋」姓が受け継がれていった。今でも木地師の里には「オグラ」という姓が残っているところは少なくないという。その先祖を辿っていくと、そのルーツは近江に行きつくことになるのかもしれない。

また、木地師の墓の中には天皇家の菊のご紋を使う墓を見ることができるという。私が仕事で訪問する群馬県の山間の村の上野村にもそれが残っている。そこには十六の菊の紋章の石塔があるのだそうだ。この紋章は近江の小椋の里に隠棲された五十五代文徳天皇の第一皇子惟喬親王を祖と仰ぐ木地師のみに許されたものだという。天皇家以外はむやみに使用してはならないとされる菊のご紋を許された木地師はいかなる存在であったのか、どうやってこれまで生きながらえてきたのか、またその末裔は今現在どのような暮らしを営んでいるのか、興味は尽きない。


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