心の中を吹き抜ける風 明星西壁・風ルート(またもや敗退) 2013/11/2

投稿日時 2013-11-4 17:21:16 | トピック: 山旅

同行者T君

月令28.1の極めて細い三日月が剱岳の上にかかっていた。集合場所の滑川を6時に出発し小滝へと向かう。

明星西壁は今年の6/16以来。前回M嬢と来たときは、半分濡れた壁を4時間を要して2ピッチまで、そこで雨が降り出し撤退。そのM嬢、「秋にまた行きましょう」と言っておきながら、さっさと他の奴らと行ってしまった。今日のバディは我が身内では最強のT君。ジム、外岩、ボルダリングと精力的に登り込んでいるTとならば楽勝と思って意気揚々と出かけた。天気もスカッとした秋晴れ、岩も真っ白く乾いて、もってこいの登攀日和であった。

1P 20m Yリード
前回同様アブミ中心にフリーを交えてビレイ点まで。
登攀は前回の風ルート以来。前回は4、5、6月とある程度登り込んでいたので、体もそれなりに仕上がっていた。ここ数カ月間ほとんど岩登りらしいことをしていない自分は、こんなに乾いた岩でも足が決まらず、動きがぎこちない。アブミをフル機動して、なんとか登りきる。

さて、いよいよTの出番。彼ならスイスイと上がってくるだろうと思っていたが、それが一向に上がってこない。待てど暮らせど登って来る気配はない。聞こえてくるのはぼやき声ばかり。どうやらフリーで登ろうとチャレンジしているみたい。ボルトラインに沿って、無理な体勢で力に任せて登ろうとするものだから、腕がパンプしてしまって、どうにもリズムに乗れていないようだ。彼がこれほど難渋している場面は初めてみた。

2P 15m T
リードを交代し、Tが行く。だが、前回M嬢が考え込んでいた登り始めのハング壁でTも滞る。もっともTはアブミを持っておらず、気持ちはフリーの一手。悩んだ結果、A0で2ピンまで直上し、意を決して前回自分がとったのと同じようにやや右上しようとした次の瞬間、ドサッと落ちてきた。ビレイしている自分に久しぶりに伝わる衝撃。さいわいTにはケガもなく、再びトライ。今度は慎重に越えていった。そして、ビレイ解除のコール。Tの1ピッチの出だしから2時間以上にわたったハンギングビレイからようやく解放された。

3P 10m Y
だが、彼がビレイ点に選んだのは前回我々がとったビレイ点の一つ手前の地点であった。しっかりとしたRCCボルトが打ってあったので、ここをビレイ点としてもよいのかもしれない。前回はこれをスルーしてスラブ下のバンドにある懸垂下降用の支点まで延ばしたのだった。直上するカンテから行こうとも考えたが、自分にはフリーで行ける自信はなく、前回同様、左の草付きの溝から行くことにした。このとき、ロープの流れが悪くなり、直しているときにアブミを一つ落としてしまった。

4P 35m T
というわけで、ここに来て初めて「快適スラブ」の全容が目に入ってきた。前回は雨と軽いガスのためよくわからなかったのだ。最初のピンは数メートル先にある。傾斜がそんなにきつくなく、そこまでは問題ないと思われる。それにしても、スラブ下バンドのこのビレイ点、前回も今回もこれを利用したが、ビレイ点にしてはお粗末すぎる。明らかに「下降支点」と思われるのだが。

さて、この快適スラブ、最初のピンまでは3級程度。そこから一気に壁が立ちあがる。そして、進むほど傾斜がきつくなり、また、足場がなくなってくる。ビレイ点手前3ピン目からが核心部。リードするTは難渋しているようだが、A0を交えて持ち前の腕力で越していく。さすがT、ここにきてフリーの身のこなし。フォローする自分はとてもフリーで行ける壁ではない。一本のアブミを使って、最後には強引にTに引きあげてもらった。ここまで登攀開始から5時間弱。開始前の妄想では、もう登りきっている時間である。

ここからは傾斜もやや緩くなり、次のビレイ点まではそう長くはない。行けそうな気もするのだが、ここまでの苦戦で我々二人とも心が萎えてしまっていた。Tの苦渋にゆがんだ表情が見て取れる。とても「快適スラブ」とはいかなかった。アブミを一本落とした自分も、リードとなると自信がない。どちらからともなく「止めっか」との声を出していた。

今の自分にはこの壁に迎え入れてもらう資格がなかったようだ。力不足は間違いのない事実だが、壁に対して謙虚に、納得のいく登攀が出来れば、それは自分にとっての会心の山となるはず。そういう大局的な心の持ちようをすっかり忘れていた。

それにしても、フリーが無理ならあっさりとアブミに切り替える自分とは対称的に、あくまでフリーにこだわってチャレンジするT。無風快晴のこんな日に、自分の中に熱い風が吹き抜けていった。

明星西壁・風ルート 下部2ピッチ 2013/6/16

明星西壁・竜ルート 2001/5/28



















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