「メモリー・キーパーの娘」 キム・エドワーズ 著 ★★★ 日本放送出版協会

投稿日時 2014-8-16 18:15:45 | トピック: 本棚

かみさんとこの作品をシェアしたが、かみさんの評価はいま一つ。

写真はそれを撮った者の人生を追体験することができる。

そこにある一枚の写真は子供を写したものだったり、風景だったり、彼の家族だったりする。そこに映っているものは単なる被写体にしか過ぎないが、それを撮影した者はそこに何かを感じてシャッターを押したはず。他の誰かが後にその写真を観たとき、その者は撮影者の心境を読み取ることが出来るはず。写真にはそういう一面もあると思う。

主人公は整形外科医。そして彼の趣味は写真を撮ること。彼は整形外科医としての名声を得るばかりでなく、写真家としても独自の境地を切り開いていき相当の評価を受ける。彼の撮った子供や家族の膨大な写真。それは「記憶の保存」、まさしく本作品の題名に繋がって来る。

今でこそ胎児の出産前検診が可能だが、この物語の出発地点である1964年頃はまだそれが確立していなかった。たとえそれがあったとしてもこの小説のような悲劇は起こり得ることだろう。
急に産気づいた妻の出産に立ち会うことになった整形外科医。必死になってとりあげた子供はりっぱな男子。だが、妻のお腹の中にはもう一人。その子も無事とりあげたが、彼女は先天的障害を持って生まれてきた。そこで整形外科医は考え、迷う。結局彼は施設にその子を預けることにし、信頼のおける看護師に女児を託した。そして、妻には残念ながら女児は死産だったと告げた。

そのことが整形外科医を一生悩ませ、苦しませる。一つは施設に預けてしまったこと、そして一つはそれを妻に内緒にしてしまったこと、そしてまた娘は死んだことにしてしまったこと。すべては時間が解決してくれると整形外科医は思っていたのだろう。いつかは妻に真相を話そうと機会をうかがっていたのだろう。だが、それができぬまま時間だけが過ぎていていく。心の奥に刺さったままの小さな『トゲ』が妻との微妙な距離感を生んでしまう。夫婦というものは不思議なもので、妻は夫の『心のトゲ』をいつのまにか自分の中に内包してしまう、それが何なのか分からないうちに。そして、それが夫婦間のわだかまりへと進展していく。

一方、施設へ預けられたはずの娘は、実は頼まれた看護師が手ずから育てる決心をして、整形外科医の前から姿を消す。娘は看護師の愛情に育まれ、ダウン症というハンデがありながらも、心配された心臓の不調も現れず、すくすくと育っていく。その看護師もまた女児の写真を撮り続けていた。そして秘かにそれを整形外科医に送っていた。

物語は整形外科医の突然の死で急展開。妻と娘、娘と息子の対面と触れ合い。

メモリー・キーパーの娘はこれからどんな人生を歩んでいくのだろうか。



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