山と不整脈その1 症状が心房細動とは知らなかった頃の話

投稿日時 2015-6-12 18:50:51 | トピック: 心房細動な日々

不整脈を持ちながら山をやっている人がどれだけいるのか分からないが、たぶんかなりの人が不整脈が原因で限られた条件での登山を強いられているのではないかと思う。自分の体験を振り返りながら、山と不整脈について考えてみたいと思う。

「心房細動」という病名は耳にしていても、それがどんな病気なのかはっきりと知っていたわけではない。単に心臓の病名の一つといった認識くらいしかなかった。それまでまるっきしの健康体を自負していた自分には縁のない話だと思っていた。しかし、突き付けられた現実は非情で、自分の生き方そのものを変えてしまった。

まだその症状が心房細動とは知らなかった頃の話。

冬山からしばらく遠のいていて、しばらくぶりに臨んだ2008年の鹿島槍でそれは起こった。年末の入山日、車止めから歩いて赤岩尾根の取り付き目指して歩いていた。一本取り、いよいよ尾根に取り付いてまもなく息が苦しくなって行動不能に陥った。少々休んで再び動き出すも体に酸素が入っていかない感じ。そんなことを二三度繰り返して後、完全に動けなくなって、雪面にうずくまってしまった。当時の模様を以下のように綴っている。

2008/12/28〜30 鹿島槍赤岩尾根初日
15時前後だったか、1900m付近の尾根上、杉の大木の根元を整地してテン場とした。天候も悪くなく、目標としていた高千穂平は目と鼻の先だったが、この状況ではいたし方ないだろう。ゆるやかな斜面なので整地作業に30分くらいかかった。ちょうど16時、テントにもぐり込むなり、くつろぐ間もなくK、Tの両名は缶ビールと缶チューハイを開けた。自分はといえば、二人に対して申し訳ない気持ちが半分、自分の体の異常に対する不安が半分、酒には目が向かない。はたして明日は大丈夫だろうか。それにしても、あの急な変調はなんだったんだろう。

西俣出合から小さな川の流れを渡って、尾根に取り付いた。その直後、いくらも歩かないうちに息切れが始まった。出だしの急登だったせいもあるが、いつになく胸が苦しい。変だなと感じたが、ものの2、3分歩いているうちにその症状は収まっていった。あとは何事も無く高度を稼いでいった。どちらかといえば順調なペース。ところが、1700〜1800m付近、急に手足が動かなくなってしまった。息も荒く、気がつくと、心臓の鼓動はバクバクと毎分200回を打ちそうな激しさ。喉から心臓が飛び出しそうとはこのことか。しかし、なんの前触れもなく、本当にその変調は急に訪れたのだった。ただ単に苦しいというのではなく、何とも言いようがない不安が全身を襲う。頭を上げれば、目が回り、吐き気もする。とても歩いていられない。そんなこんなで一本とる。大休止後、ゆっくり歩き始めるが、すぐに息が荒くなり、やっぱりダメ。とにかく、自分に何が起こっているのかさっぱりわからない、今の状態が信じられない。これ以上歩ける自信はなく、もっと重篤な症状になってからではどうしようもない。リーダーにその旨を告げ、ビーバーク地を探してもらうことにした。

テン場を整地していうちに、というよりか、テン場と決めた地点に辿りついて直後、気分は急速に回復していき、雪を払ってテントに入ったときにはほぼ平静に戻っていた。頭を振っても痛くないし、呼吸も鼓動も平常値。本当にあれはなんだったんだろうと思うことしきり。しかし、明日の行動のことが気にかかる。テン場は予定地より150mほど低い。往復にして2時間のロスがあるとみていいだろう。目的地まで高差にしてまだ1000mある。1000mのアタック、はたして届くだろうか。天候が崩れればまずむりだろう。そんな思いで頭がいっぱい。なにより、自分の体調に自信がもてない。


後からにして思えばこのとき心房細動が発症していたのだと思う。 急な尾根の途中だったが仲間に頼んでテントを設営してもらい、転がり込むようにして中に入った。休んでいると苦しい症状は和らいでいって、食事もなんとか摂ることができた。翌朝になってみると、前日のことが嘘のように体は軽くなっていた。そのときは心臓の異常などとは思ってもみなかった。ただ単に体調が悪かったのかな、くらいにしか考えておらず、テントサイトからの頂上アタックもゆっくりペースではあったが、無事成功した。息が切れ切れの登行であったが、久しぶりの山だから体がついていかないだけだろう、としか思わなかった。下山時は全く問題ない。ただただ、あの不具合はいったなんだったんだろう、と首をかしげるばかりであった。

この年の5月には、馬場島から西大谷尾根を歩いて剱まで縦走し早月尾根を下りてきており、このときにはなんの異常もなかった。それだけになおさら自分の体の中で何か変化が起きているとは夢にも思っていなかった。


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