「風の陣」全5巻 高橋克彦 著 ★★★ PHP出版

投稿日時 2015-6-26 18:29:26 | トピック: 本棚

東北に興味を魅かれるようになったのはいつの頃からだったろうか。

たぶん「晴子情歌」に始まる高村薫の青森三部作を読んでいた頃からだと思う。東北、それもその最北端に巨大な勢力と権力を持つ豪族がいたというのが驚きでとても新鮮だった。青森に豪族がいてもなんら不思議ではないのだが、それまで東北史については皆目というかゼロに近い認識かもっていなかった。ただ漠然と地理的なイメージの青森が頭の中にあっただけ。

加えて、山の本繋がりでマタギ作品に出会い、それが熊谷達也に繋がり、「アテルイ」へと繋がっていった。「アテルイ」は高橋克彦の東北シリーズに繋がり、「火炎」、そして今「風の陣」に辿りついた。

一方、北方謙三の「大水滸伝」では、宋の時代、梁山泊と奥州藤原氏の交易の場面が一つの物語を形成し、物語全体を支えていた。もともと奥州藤原氏の栄達に疑問というか興味があって、長い間自分の中にくすぶっていて、いつかそれを見極めたいと思っていた。そこにきての「大水滸伝」、ますます自分の中に占める奥州のウエイトは重くなっていった。

さらに、高橋克彦氏の伝奇小説「総門谷」シリーズは以前からお気に入りの一つで、そこに登場する坂上田村麻呂らが生きた時代に入ってみたかったということもある。「火炎」「風の陣」を読み終えて、もう一度「総門谷」を読み直してみたいと思っている。

さて、「風の陣」 
4巻まではほとんど京を舞台に物語が展開する。蝦夷でありながら京に食い込んだ道嶋嶋足に物部氏と坂上苅田麻呂を加えたチームが、京の公卿、朝廷、藤原仲麻呂らと権謀術数に富んだやり取りを繰り広げる。中盤からは怪僧道教も登場し、朝廷の権力闘争に複雑さが増してくる。5巻に入ってから物語は一気に加速。蝦夷は朝廷とは一線を画した独自路線を貫くという思いを秘めつつ、表面上は朝廷に恭順する姿勢を見せていたが、朝廷のあまりにも蝦夷を蔑視した言動と理不尽な上から目線の態度に、ついに堪忍袋の緒が切れる。プライドを傷つけられた蝦夷は鮮麻呂を中心に決起を図る。

「火炎」の前哨戦となる物語。



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