「その女アレックス」ピエール・ルメートル ★★★ 文春文庫

投稿日時 2016-3-3 18:19:01 | トピック: 本棚

「悲しみのイレーヌ」を先に読んでおきたかったのだが、なかなか順が廻ってこなくて、本書を手にとった。フランスが舞台というのは新鮮に感じる。最近、アイスランド、スイス、スウェーデンといった北欧ミステリーが目に留まるようになってきた。それが、たいがいが面白いものなので(もっとも邦訳されるからにはそれなりの内容のものではあるのだろうけど)、北欧でもミステリーというのは人気があるのかなぁと思ってしまう。

さて、この作品。
良い意味でも、悪い意味でも、騙された感がぬぐえない。
一人の女性が連れ去られ、拉致され、暴行を受けひどい目にあわされる。しかし、その女はとんでもないシリアルキラーだった。起承転結でいうならば、起から承へ向かう際に若干の論理的破綻を感じる。暴行を受けているアレックスの心理描写が百パーセント被害者のそれであるため、いかなり彼女がシリアルキラーの本領を発揮することに違和感を覚える。

捜査官は前作「悲しみのイレーヌ」の事件をかなり引っぱっていて、本作品にもその辺が度々出て来る。同じ捜査官が登場するシリーズ物であっても、これだけ前作のことを引きずっている作品はそんなに多くはないと思う。前作のエピソードはさらりと流して、本題に入って行くのが常套ではないだろうか。しかし、主人公である捜査官は執拗に前事件のことを回想する。それは「悲しみのイレーヌ」を読んでいないものにとっては、迷惑な話だ。その「イレーヌ」に対する執着が全編を通して出入りして、アレックス事件が成り立っている。それが、シリアルキラー事件になお一層暗い影を落とすのに役立っているようだ。「イレーヌ」を排除しようと思えば、それなしでも本作品は成し得たであろうが、あえて、「イレーヌ」にこだわり続けたからこその作品だとも言える。



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