「特捜部Q カルテ番号64」ユッシ・エーズラ・オールスン 著 ★★★★ ハヤカワ・ポケット・ミステリー

投稿日時 2016-10-15 19:46:55 | トピック: 本棚

物語の最後に付記されている以下の著者の記述は衝撃的だ。

『この小説に描かれている女子収容所について
本書に描かれている女子収容所は、1923年から1961年まで、大ベルト海峡に浮かぶスプロー島に実際に存在し、法律または当時の倫理観に反したか、あるいは“軽度知的障害”があることを理由に行為能力の制限を宣告された女性を収容していた。また、無数の女性が不妊手術の同意書にサインしなければ、施設すなわちこの島を出られなかったことも裏付けがとれている事実である。
不妊手術の実施に適用されていた民族衛生法や優生法といった法律は、1920年代から30年代には、欧米の三十カ国以上・・・主に社会民主主義政権国家や新教徒的傾向の強い国家、もちろんナチス時代のドイツ帝国も含まれている・・・で公布されていた。
デンマークでは、1929年から1967年までに、およそ一万一千人(主に女性)が不妊手術を受けており、その半数が強制的に行われたと推測されている。
そして、ノルウェー、スウェーデン、ドイツ等とは対照的に、デンマーク王国は今日に至るまで、こうした人権侵害にあった人々に対する賠償金の支払いも、謝罪も行っていない』

デンマークというと北欧の洗練された国家というイメージが先に立つが、こういう悲しくて暗い裏の面があったということは驚きとしか言いようがない。物語はその女性収容所から命からがら出所した女の復讐劇が主題となっている。ゆえにミステリーという枠に留まらず、社会派小説という側面も備えていて、重厚な作品に仕上がっている。辛くて、もの悲しいミステリーだ。

さて、ここに記されているような史実が本当にあったのか、ウエブで調べてみたが、なかなかヒットしない。今の世の中、何でもネットで解決すると安易に考えていがそうはいかなかったようだ。図書館に出向いてみても同じ、ナチスに係る書籍が散見されるだけ。「デンマークの歴史教科書」というのもあったが、これにもその件は触れられていない。ただこの教科書、デンマークという国を理解するのには重宝した。

そんな中、あれやこれや探ってやっと探し当てたのがこの文献。
「デンマークにおける断種法制定過程に関する研究 石田祥代 著」
他にも、スウェーデンの実態や、優生思想、公的駆除といった観点からの文献もいくつか見出すことができた。この作品がきっかけでまた知られざる世界への扉が開かれた。



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