サプリメントの話 : 気分をたかめる セントジョーンズワート(セイヨウオトギリソウ)
投稿者: hangontan 投稿日時: 2006-11-11 17:41:53 (1343 ヒット)

「弟切草」の由来は,この植物の傷薬としての秘密を弟が他人に漏らしたため,鷹匠の兄が弟を切ったことによるという。
セントジョーンズワートの黄色い花をつぶすと,赤いオイル状の液体が出る。この赤色が血を連想するのか、西洋でも聖ヨハネ(JohnもJohannesも同じ語源)の斬首の血の色に見立てている。聖ヨハネの日の前夜6月23日に、このちょうど満開になるセントジョーンズワートを集め、悪魔払いに、豊作祈願につかったという。
 この植物は、切り傷の止血などに2000年も前のギリシャ・ローマ時代から使われてきた。1980に入ってから、ドイツの研究者が、セントジョーンズワートにはセロトニンなど脳内の興奮性の伝達物質を増やし、気持ちを前向きにさせる作用があるといわれ、実際、欧米ではうつ病治療に使われるようになった。

有効成分
セントジョーンズワートの有効成分は、つぼみ、花、新芽に含まれている。その抽出液に含まれる成分[ハイペリシン(hypericin)]が抗うつ材として使われるモノアミン酸化酵素阻害財と同様の働きがある。
 最近別の成分[ハイパーフォリン(hyperfoin)]が直接脳内の神経伝達物質の、セロトニン、ノルエピネフリン、ドーパミンの濃度を高める作用があって、これが抗うつ効果の有効成分であるとの研究がなされた。
 抗うつ剤[プロザック]と比較した試験では、セントジョーンズワートを400mgずつ一日2回与えた組と、プロザックを一日20mg与えた組とでは、その抗うつ効果が殆んど同じだった、という結果が報告されている。

医薬品との相互作用
 さらに厚生労働省は2000年にセントジョーンズワート含有食品と、医薬品との併用について注意を喚起する文章を発表した。免疫抑制剤や経口避妊薬、強心剤、抗HIV薬とともにセントジョーンズワートを摂取すると、こうした医薬品の血中濃度が低下して、医薬品の効果が減少することがわかった。
 薬物代謝にはチトクローP450などの酸化酵素が消化管,肝細胞などで働いている。P450とは、450nmに吸収がある小胞体やミトコンドリアの膜結合型の蛋白である。精製の際膜を可溶化するため界面活性剤を使用すると蛋白質が変性して精製は困難であった、広く生物界に存在しており、外来物質(内分泌撹乱物質,医薬品など)の解毒に働いているが、ときにベンズ-a-パイレンのごとき酸化により発癌物質の活性化、生態構成成分の合成、ステロイドホルモン、プロスタグランジンなどの生理活性物質の生合成と分解など多様な化合物の代謝に関わっている。酵素は巨大酵素ファミリーとよばれるような集団で、アミノ酸配列の異なった種々の分子種が存在しており、近年のゲノム解析などから、56個の遺伝子が明らかになっている。
 セントジョーンズワートによるP450の活性化により代謝が促進され,血中濃度の低下するおそれのあるものとして,厚生労働省が注意を喚起した医薬品リストには,以下のものが在る.
アミノフィリン,アンプレナビル,エチニルエストラジオール・ノルエチステロン,エチニルエステラジオール・レボノルゲストレル,エファビレンツ,塩酸アミオダロン,塩酸アミトリプチリン,塩酸プロパフェノン,塩酸リドカイン,カルバマゼピン,ゲフィチニブ,コリンテオフィリン,サキナビル,ジギトキシン,シクロスポリン,ジゴキシン,ジソピラミド,臭化水素酸エレポリプタン,シンバスタチン,タクロリムス水和物,テオフィリン,ネビラピン,フェニトイン,フェニトイン・フェノバルビタール,フェノバルビタール,メシル酸イマチニブ,メシル酸サキナビル,メシル酸デラビルジン,メシル酸ネルフィナビル,メチルジゴキシン,リトンビル,硫酸イソジナビルエタノール付加物,硫酸キニジン,ロビナビル・リトバビル,ワルファリンカリウム等々。
 こうなると、このセントジョーンズワートは単なる健康食品ではない薬草(medical herb)であるとの思いがする。くれぐれも上記以外でも併用するときは,医師と相談してください。また医薬品の抗うつ剤との併用は危険で、避けなければならない。
 ところでこれとは逆に、P450の活性を抑制しその結果薬物代謝を遅らせ薬物の血中濃度を上昇させるものとして、食品では[グレープフルーツ]が有名です。

参考文献
○医薬品と飲食物・サプリメントの相互作用とそのマネージメント;大西憲明,フジメディカル出版(2003)
○健康食品ノート;瀬川至朗,岩波新書(2002)
○サプリメント・ブック;澤 賀津子,石田 磬,日本文芸社(2003)
○最新サプリメント・ガイド[からだの科学増刊];板倉弘重,日本評論社(2003)
○P450の分子生物学;大村恒雄,石井 巽,藤井義明,講談社サイエンテフィク(2003)

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