「邪魅の雫(じゃみのしずく)」
京極夏彦 ★★ 講談社ノベルズ
このシリーズとしては不作の部類かな。
殺人事件がバラバラにかつ連続して起きるのだが、その実それらはなんの脈略もないように思える。読み進むうちに本当にその通りになってくるから、おそろしい。ツマリ、別々の事件なのだ。ただ手法として面白いのは、一つの事件も視線の当て方によって別の事件に見えてしまうという描き方。登場人物はどこかに接点があるのだが、そのそれぞれが持つ世界が必ずしも彼らがすべて共有しているわけではない。その見え方のパラドックスを主題にしているのだと思う。だが、事件の落ちがあまりに軽すぎ。もう少し読ませてくれることを期待していただけに、残念。
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