「すべての美しい馬」 

コーマック・マッカーシー 著 ★★★★★ 早川書房

まず、題名になんとなく違和感を覚える。単に「美しい馬」ならわかる馬でなくバラ人々車そのほか何でも当てはめてみてもしっくりこない「すべての馬」がどうしたというのだそんな気分で本書を手に取った。

舞台はアメリカ南西部とその国境を挟んだメキシコ出だしはやや戸惑い気味会話と他の文章との途切れがなく淡々と語られていく主人公ジョン・グレイディの置かれている位置がよく理解できないまま物語が進んでいく。かまわず読み進む。まだ十代のグレイディとその連れのロリンズが街を出て馬を駆って旅に出るシーンから物語は一つの山場へと向かっていく。そこでもう一度最初から読み返すと実にしっくりとくる。独特の文章運びに慣れてきて物語の脈絡が見えてくる。この山が大きなうねりとなって物語を引っ張っていく。終盤に差し掛かるころ、はたと気付かされる。なんのことはない小説の基本「起承転結」がうまいようにハマっている。

長旅の末、二人はメキシコの大きな牧場に落ち着く。牧場での生活に慣れてきた頃二人は身に覚えのない罪を押し付けられ警察に拉致されてしまう。そこでさんざん暴力を受け文字通り瀕死の状態に陥る。そこから物語は「転」に移っていく。

淡々とした状況描写と会話の妙が読む者を惹きつける。馬なくして語れないアメリカの一面を強烈に印象付けられた以前読んだアメリカ西部開拓の物語「センテニアル」(ジェームズ・ミッチナー)の中の一文を思い起こした。「馬に乗れるようになれば一人前とみなされる。あとは自分のケツは自分でふかなければならない」自分の人生は自分で選ばなければならない自分探しという甘っちょろいものではなくて自分で決める自由がありそれは自らの手で掴み取らなければならない。ジョン・グレイディにそんなアメリカを見た。

「すべての美しい馬」

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