「天空の回廊」

笹本稜平 著 ★★★★ 光文社

久々の山岳冒険サスペンス。エベレストを舞台に繰り広げられる山岳アクション。だいぶ古くなるが、ボブ・ラングレーの「北壁の死闘」を彷彿させる。 登攀シーンは細部にまで正確に描かれており、山屋が読んでも全く違和感がない。むしろ、臨場感漂う登攀シーンが見所。ただ、登山経験のないものにとって、この辺はどのように感じるのだろうか。 エベレストの山頂付近に墜落した人工衛星が実はアメリカの中性子爆弾の弾頭を積んだ軍事衛星だった。その軍事衛星の奪取をめぐり物語が進行する。 エベレスト登攀にかける山屋の物語に軍事衛星の秘密に関する彼我の物語が連動する。しかし、これがやや風呂敷を広げ過ぎて、その辻褄合わせに一苦労。結局、複雑で説明的にすぎる作品になってしまった。登場人物も多すぎて、誰が誰だかわかんなくなってしまう。もう少し話を単純にした方がよかったのではないかと思う。 登攀シーンなどの客観的な描写力は優れているが、セリフまわしや文章使いに紋切調的な表現が多々見受けられる。それもちょっと気になる点。笹本稜平は自然に筆がすすむというタイプではないようだ。熟考の末練られた表現と筋立てが仇になっている。書き手としては、小説よりも学術論文や報道記事に向いているように思う。

「天空の回廊」 

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