「太平洋の薔薇」
笹本稜平 著 ★★★★ 中央公論社
第6回大藪春彦賞受賞 題名の「太平洋の薔薇」とは物語に登場する老貨物船「パシフィックローズ」のことだった。 一言で言って、海の男の物語。海洋大冒険活劇だ。 この作品の白眉は最後のシーンにある。ここで涙する読者も多いのではないだろうか。この場面のためにこの小説は書かれたのであった。 日本を離れた遥か南方洋上をいく老貨物船「パシフィックローズ」。その船長柚木精一郎の最後の航海。 物語的には、旧ソ連時代の遺物の生物兵器とトルコ人によるアルメニア人虐殺がサブタイトルとなっている。 しかし、最大の見所はハイジャックされながらも、冷静に判断し荒波を乗りこなして行く柚木精一郎の活躍である。ストーリーよりも人間を描くことにおいて本作品は優れている。 脇役としてこの物語の鍵を握るもう一人の人物、アメリカに亡命したアルメニア人が登場するが、これもいい味を出している。だが、やはり柚木精一郎の一人舞台と言っても過言ではないだろう。 海の男の中の男、その柚木精一郎の最後の航海にふさわしいフィナーレを用意してくれた作者に感謝する。 また、この本はカバーに描かれた画がすばらしい。荒波を駆る貨物船が臨場感たっぷりに描かれている。本文を読みながら、幾度この表紙を眺めたかわからない。この画の描き手、横山明も一押しだ。
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