「瀕死のライオン」
麻生幾 著 ★★★ 幻冬舎
「レッド・オクトーバーを追え」に出合って、その魅力にひかれ、軍事スリラーにハマっていった。 以来、国内外の軍事スリラーを手にとってみたが、この分野では日本人作家は欧米の作家たちに遠く及ばないのではないかと感じていた。 もっとも、欧米の軍事スリラーでもトム・クランシーの作品に匹敵するものにはまだ出会っていない。 しかし、日本人作家の作品となると、一気にトーンダウンしてしまう。 なんとなく、もどきというか、ちゃちっぽい作品ばかり。力が入っているのはわかるのだが、物語としてはいまいち。 だが、しかし、この作品はこれまでに読んだ日本人作家のどの作品よりも完成度が高い。麻生幾自身の作品の中でも最高の出来ではないだろうか。 人物描写と心理描写、そしてよく練られたストーリー展開が、息切れすることなく最後まで続き、この作品の品質を保っている。これまでの日本人作家のレベルから一歩抜け出した感がある。 有事が想定され、敵国がそれを画策していることが明らかになったときどう対処するのか。専守防衛に徹する日本がとれる選択肢はそう多くはない。本当に、アメリカの庇護のもとにいるから安心と決めかかっていいのだろうか。アメリカが何らかの事情であるいは何らかの意図があって、行動を起こさない場合、日本はどうするのだろうか。 本作品はそんなことを想定したシュミレーション的小説ともいえる。自衛隊は、官邸は、総理はどう決断するのか。策源地攻撃は可能なのだろうか。その方法は、そしてその任にあたる部隊は・・・。 圧巻は終盤の戦闘シーン。予想だにしなかった結末が待っていた。
「瀕死のライオン」 上・下 |