「天平の甍」
井上靖 著 ★★★ 井上靖全集 新潮社
「鑑真は何をしに、どのような経緯を経て日本にやってきたのか」そのこたえがこの作品にあった。もっと劇的で波乱万丈な展開かと想像していたのだが、以外に淡々と描かれている。 「天平の甍」以降、作者の歴史小説に対するスタンスが変わったという。彼自身の中において大きな意味を持つ作品であったようだ。 この全集に付録として載せてある、作者の妻である井上ふみさんの寄稿文がまたよくできている。著者との出逢いのころのエピソード。「文学の芽は育ち始めた」という題なのだが、井上靖に結婚を申し込まれたあたりのいきさつがおもしろい。この作家にしてこの婦人あり、といったところ。
「天平の甍」 |