「マオ」

ユン・チアン、ジョン・ハリディ著 ★★★ 講談社

前作「ワイルド・スワン」に引きずられ、手に取った一冊。 おそらく誰もが同じ道を辿るだろう。それほどに、「ワイルド・スワン」のインパクトは強烈だった。 「ワイルド・スワン」同様分厚い2冊組みの本。「ワイルド・スワン」では作者と作者の家族が辿った数奇な運命に圧倒された。本書はその激動の中国の渦の中心となった毛沢東に関する、いわば暴露本みたいなもの。副題に「MAO The Unknown Story」とあるように、誰も知らなかった毛沢東の真の姿を映し出している。

「ワイルド・スワン」に出会うまでは、毛沢東とは「かつて中国共産党をひきいていた」ことぐらいにしか頭になかった。文化大革命とは、天安門事件とはどんな事件だったのか、周恩来とは、林彪とは、鄧小平とは、テレビや新聞で見聞きはしていたが、いかなる人物だったのか。まるっきり知らなかった。「ワイルド・スワン」で初めてその一端に触れることができた。本書ではさらに踏み込んで、より詳しくその実態に迫っている。 毛沢東の生きた時代はまさに混沌とした現代中国の辿った時代と同調する。前半はまるで戦国時代の国獲り物語をみているかのような感じ。権謀術数をつかって敵を利用し、翻弄し、また味方を欺き、それがまた嘘のように毛沢東の思惑通りに進展する。 その点だけをとらえれば毛沢東はカリスマと言えなくもないが、その実態は嘘と恐怖と破壊と色で塗り固められ、残虐で悪辣で自己中心的なやり口だ。それはまさしく暴君と言う名に等しい。

三国志の中の英雄と明らかに違うのは、毛沢東には市民の幸せを願うということがなかった点。ただひたすら私利私欲のために覇権を目指したのだった。 それなのになぜ人々は、結果的に、彼になびいていくことになったのか、それが不思議でたまらない。「三反、五反運動」「走資派」「造反派」「階級闘争」「土法高炉」「スプートニク畑」「紅衛兵」「ジェット式」・・・。毛沢東は中国を徹底的に破壊し、自国の民7000万人以上を死に追いやった。そんな人物がなぜ国を牛耳ることになったのか。それでもなぜ彼は崇め奉られていたのか、そこがいかにも理解しがたい。 著者自らの体験に加え、膨大な調査と資料をもとに作成された本書は現代中国を知るバイブルとなることは間違いない。それほど本書は中身が濃く、意義深い作品である。

「マオ」

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