「燃える家」
田中慎弥 著 ★★★ 講談社
★の数に一瞬迷ったが、ちょっとは読ませてくれたので、とりあえず三つ。 分厚く重い(内容も)長編である。 赤間関市が舞台となっている。赤間関市とは架空の名前かと思ったら、山口県の実在した名前だった。 「とりあえず三つ」とした理由は、複数の主題と題材が組み込まれているが、その繋がりと整合性にやや難があるような気がしたからだ。一つ一つの主題となる物語、それ自体はおもしろいと思う。作者はそれらを入れ子にした長編としたかったのだろうが、その繋ぎが雑であるため全体として何が言いたいのかわけがわからない作品となってしまった。複数の挿話を独立させた短編集としてもよかったのではないかと思う。さらに、挿話をなす物語の設計図にも若干の無理がある。発想自体はおもしろく、読ませる気にさせてくれるのだが、え?何で?と首をかしげたくなるような場面に幾回も出くわす。つまり、本書は良い悪いがないまぜの長編小説なのである。 海辺の町の赤間関市と山口市の描写には秀逸なところもあり、人物描写も直截的で、場面を頭の中で描くのはたやすい。「先帝祭」も挿話として興味深く描かれている。赤間関に縁のある人や山口県、その近県の人が読んだらまた違った印象を受けるかもしれない。
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