「中原の虹」

浅田次郎 著 ★★★★★ 講談社

満州のことを知るなら、清のことを知れ、清を知りたければ、中国の歴史を知れ。 かみさんはこの題名を「ナカハラノニジ」とのたまった。 ユン・チュアンの「西太后秘録」を読んでから、昔読んだことのあった「蒼穹の昴」「珍姫の井戸」を再読し、そして待望の本作品。 文句なく面白い。先ずは読んでみるに限る。 清国の滅亡とともに中国五千年の永きに渡って続いてきた王朝支配の末期を浅田節にのせて綴っている。主人公は張作霖と袁世凱。もちろん脇役も固い。 うまくできているのは、清の礎となった女真族が長城を越えて征服王朝となり明王朝にとって代わる物語が清王朝終焉の物語と重ね合わせて描かれている点である。清国を築き上げたアイシンギャロの勇士たちの苦悩と清国の最期を間際にして列強から食い物にされまいと必死の抵抗を試みる人々の心の内がうまい塩梅で描かれている。そして、やや唐突にさえ思え、独立独歩の道を歩む馬賊の張作霖が文字通り暴れ馬のように物語の中を縦横無尽に駆け巡る。 自分がほとんど知らなかった清王朝の勃興と中国王朝の最期はこんなであったかと、私の中の中国の歴史認識が上書きされた一冊であった。

「中原の虹」全四巻 

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