「ティーンズ・エッジ・ロックンロール」
熊谷達也 著 ★★★★★ 実業之日本社
熊谷達也はこんな作品も書いていたのか、というのが第一印象。 山にこもる杣人を描いた物語に魅かれて数冊彼の作品を読んだ印象は、緻密で重厚な作品を綴る作家という印象だった。 そして、今回手に取ったこの一冊はそれまでの重厚さとは別の全体を通して爽やかな風が吹き抜けている、青春小説だった。とても同じ作者の手から生み出されたとは思えない、がらっと異なる作風に新たな驚きとうれしさがこみ上げてきた。 今風の高校生が普通にさりげなく描かれて、眩しくて、切なくて、希望にあふれ、自分の高校生の頃の面はゆさとシンクロさせてみたり、息子の高校時代とかぶせてみたりして読み進む。 若干うまく行きすぎるなぁ、との思いも走るが、それを差し引いてもこの作品は傑作といえる。物語の根底に流れる、故郷で生きるということ、が下支えになっており、ただの青春小説にとどまらない味付けとなっている。 宮城県の仙河海市が舞台のこのシリーズにしばらく浸かってみよう。
「ティーンズ・エッジ・ロックンロール」 |