「リアル 日本有事」

麻生幾 著 ★★★ 角川春樹事務所

久しぶりの軍事活劇、そして麻生幾。 トムクランシーほどの人間描写はないが、有事シミュレーションとしてはよくできている。有事の際に想定し得るありとあらゆることが網羅されている。そのち密さは読みごたえ十分、ぐいぐいと引っ張っていってくれる。本作品で注目したのは有事の際に何が一番重要かという点、作品もそれを中心軸に描かれている。それは「エンドステート」、これまでの軍事物で初めて出て来たタームだ。言われてみれば、確かにそう思う。有事に際しては、末端現場から軍部上層部、官邸に至るまで、それぞれに課された役割があるが、すべては「エンドステート」に向かって組み込まれなければならない。作品中にも兵士や作戦部隊、官邸がそれを確認し合う場面がたびたび出てくる。刻々と変化する状況に基づく究極の選択と決断に際してはその「エンドステート」を見失ってはならない、ということだ。 そして、エピローグにはちょっとした「計らい」も設けられていて、ほくそ笑んでしまった。出版元の角川春樹事務所への配慮も多少あるのかもしれない。

「リアル 日本有事」

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