「メディアの権力」

デイヴィッド・ハルバースタム 著 ★★★★★ サイマル出版会 全三巻

一度買った本はなかなか捨てられない。いつの日にかまた読む機会があるだろうと、とってあるのだが、そうでなければただの飾りにしかすぎなくなってしまう。 いつまでも本棚の肥しにしておくのもしゃくだし、かといって捨てるに忍びなく、最近になってその中から一冊ずつ取り出して読み返している。本書もその一つ。 二十数年ぶりの再読となる。 先に読んだ「ベスト&ブライテスト」と甲乙つけがたい面白さ。 第四の権力と言われるメディアについて、アメリカでの勃興と富と苦悩について描かれたノンフィクション。新聞や雑誌、ラジオ、テレビがいかにその時代時代において政治や市民と関わってきたかを時代背景とともに示し、またそれぞれのメディアの担い手たちの人間味あふれる姿を描き出している。現場記者の描写は迫真に満ちて、もちろんおもしろいが、それより巨大メディアを築き上げた“社主”の姿が数多くのエピソードを通してとてもうまく描かれていて興味深い。

本書では、ワシントンポスト、タイムライフ、ニューヨークタイムズ、ロスアンジェルスタイムズ、CBSを追ってそれぞれのメディアの一時代を切り取っている。 話はケネディ、ジョンソン、ニクソン大統領の時代を背景とし、ベトナム戦争、大統領選挙戦、ウォーターゲート事件を主な題材として取り上げている。 どのページをとっても新鮮な話ばかり。だが、特に印象に残ったのは、新聞、雑誌、ラジオが時の権力と密接な関係にあったこと、ときには政治家の代弁者そのものであったこともあり、またそれがメディアの意思でもあったということ。テレビの時代に移ってからは次第にその傾向は薄くなっていくが、逆に政治家がテレビを利用し始める。1960年の大統領選でのケネディとニクソンのテレビ討論では、まさしくテレビが決定的な力を持つことの証左として認識されることになった。ことのきケネディ側が彼のテレビ映りをよくするためにと選んだ「マックスファクターのクリームパフ」がその勝敗を決めたことは今も語り草になっている。その後、テレビと大統領選とは切っても切れない関係となっていった。 また、ウォーターゲート事件報道の裏側にあった話も実に興味深い。その時、それぞれのメディアはどう動いたのか、現場記者とメディアトップとのやり取り、そして会社の運命を決めることになるかもしれない記事や報道に対するトップの決断。それらが臨場感たっぷりの筆致で描かれている。 メディアの先進国アメリカ(少なくともう自分は日本のはるか先を行っていると思っていた)の、その知りえなかった世界がここに描かれている。

「メディアの権力」デイビッド・ハルバースタム 著 ★★★★★ サイマル出版会 全三巻

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