「バベル オックスフォード翻訳家革命秘史 上・下」
R・F・クァン 著 ★★★★ 東京創元社
なかなか面白い。
いわゆる「翻訳」の世界と「銀工術」という架空のテーマを融合させた画期的娯楽作品。分野的にはファンタジー、さらには「ダークアカデミア」という範疇に入るらしい。高田大介の「まほり」にも似た世界がある。
もともと、「翻訳」というものに関心があった。海外で出版された外国の作品の邦訳物にはどれだけのオリジナル性があるのか。または、日本の作品が海外で訳され紹介された場合、どれだけ日本語の意味合いや微妙な言い回しが伝わっているのか。この作品はそんな疑問を抱く読み手に直截に響いてくる。なにしろ「翻訳」が本作品の主テーマなのだ。
舞台は大英帝国いや世界の象牙の塔と目されるオックスフォード、その中にあってもっとも地位が高い王立翻訳研究所「バベル」。そこは大英帝国の覇権の創生に必須とされる翻訳家の育成と「銀」の力をもってあらゆるものに影響を及ぼす「銀工術」の塔であった。翻訳はただ異文化の紹介や交流に役立つだけでなく、異国を統治するうえでも最も重要な要素だ。
時はアヘン戦争前夜、産業革命を経てイギリスは大英帝国の絶頂期であったが、清からのお茶、絹、陶器などで輸入超過となり、その打開策としてインドで作られたアヘンを清に持ち込むことを考えた。そのときに使われていたのが銀である。そんな史実と「銀工術」の組み合わせはまさしくベストマッチで、そんな手があったのかと思わされた。
「バベル オックスフォード翻訳家革命秘史 上・下」R・F・クァン 著 ★★★★ 東京創元社 |