「朱夏」

宮尾登美子 著 ★★★ 宮尾登美子全集 朝日新聞社

宮尾登美子三部作の最後。 十八歳の綾子が乳飲み子を抱えて満州に渡り、すぐに終戦となって引き上げてくるまでの一年半が描かれている。 「ファンゴール」とは転地が逆さになるという意味の満州の言葉。終戦を境に満州にいた日本人の生活は一変してしまう。それまで虐げられてきた満州の人々が「ファンゴール」「ファンゴール」と叫んで日本人の居留地に押し寄せてくる。それこそ着る物一つだけとなった満州での悲惨な生活に追い討ちをかけてくる。そして、どん底の状況に置かれた主人公の葛藤。 「櫂」「春燈」そしてこの「朱夏」いずれも心地よい余韻が残る。何もかもあわただしい現在から、時間、空間、気持ちともトリップさせてくれる。 このあと物語は「仁淀川」に引き継がれているらしい。

「朱夏」

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