「一弦の琴」
宮尾登美子 著 ★★★ 宮尾登美子全集 朝日新聞社
第80回直木賞(昭和53年) 『一弦の琴』とは一台の琴の意味かと思っていたら、文字通り弦が一つしかない琴のことだった。だいたいそういう琴が存在していたことすら知らなかった。一弦なので華やかな音、演奏はできないだろうと想像するのだが、逆に、心にしみいる音色がかもし出されるの。かもしれない。 頃は幕末から明治、昭和四十年代まで、一弦琴に魅かれた二人の女性の物語。二人は一弦琴塾の塾長とその塾生の間柄なのだが、双方とも様々な出会いと運命を経てその道を極めていく。 ここでも宮尾節に聞き入ってしまう。他の作品同様、どの登場人物、どの場面にもすぐに入っていくことができる。和風の庭に面した縁側付の畳の間でピーンと張られた一弦琴を弾く主人公の姿を思い浮かべると、こちらも静謐な空気に包まれる。
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